RE:写真集感想

 これで最後、「出羽三山」 たいへん豪華な装丁の本です。1980年。
 
 修験道を撮った作品です。著者のライフワークでもあるようです。
 そしてカラー。後ろの方にモノクロも出てきますが、ちょっといままでとは趣が違っています。
 トレードマークとも言える、ノイズたっぷり、ストロボバシャリの作風はなりを潜め、ひたすら正確性、記録性を追い求めたような写真が多いです。言うなれば、学研の図鑑風な。
 そのせいでちょっと「ツマラン」と思ってしまいましたが、ぞくりとさせられるような絵もいくつかありました。
 わけても即身仏の迫力でしょう。
 
 巻末の解説は他の方に譲ってらっしゃいます。自重ムード漂う一品。

RE:写真集感想

 続いて、同じく内藤の「遠野物語」です。初版は1983年。
 冒頭には吉本隆明の論説「遠野物語別考」が寄稿されています。
 写真集部分は、「生者の章」、「死者の章」、「神々の章」の三段構成になっていて、それぞれ「実際の遠野郷の風景と、村人の様子」、「お寺に奉納された肖像画・写真」、「神仏像」が被写体になっています。
 
 一番興味を惹くのは、「生者の章」でしょう。
 手法としてはストロボの多用。
 闇の中から老婆の顔が浮かび上がる様は、さながら海の底でチョウチンアンコウに出会ったようです。
 妖しい世界の演出に欠くべからざる役割を果たしています。
 本人も大いに自覚していたようで、あとがきでは、『写真の表現として、意識的かつ集中的にストロボを使用したのは私が世界で最初である』と胸を反らしています。
 わたしはストロボを持っていないので、いつも自然光で撮ってきましたが、その可能性に目を開かされました。
 
 巻末はお馴染み、考察ノートです。先生どうしてすぐ考察してしまうん……。
 しかし先の「東京」ほどのオカルティズムはなく、大人しめです。結構面白く読めました。

RE:写真集感想

 次は、内藤正敏の「東京」 初版は1985年。
 これは凄いです。ヤバイです。
 第一に、写真・文・構成・題字・装丁の一切を自分でこなす「オレオレ」ぶりが凄い。
 
 肝心の写真。これがまた輪をかけて凄い。
 酔っ払い、ケンカ、ゴミ溜め、火災現場、交通事故、商売女、よく分からない品の悪そうな人々、そしてホームレス、ホームレス、ホームレス。
 エイ!ヤア!これでもかこれでもかと東京の暗部恥部を画面いっぱいにナスリ付けて来ます。
 そして、フィルムはやっぱりトライXなのか、砂のようなノイズが凄い。
 モチーフの持つドロドロとした妖しげな雰囲気に実にマッチしています。
 わたしはどちらかと言うと、つやつや、スベスベ、まったりスムーズな絵が好きなのですが、「こういうのもアリなのか」と頭が下がりました。
 
 巻末の「東京論ノート」 しつこいようですが、これも凄い。
 内藤先生は民俗学者でもあらせられるので、東京という街の成立についても民俗学的なアプローチで攻めます。
 曰く、「徳川マンダラ」と……。
 
 それはオカルトではないのか?と訝しんでしまいました。
 しかし先生の筆致は、「反論なんて許さねぇ」と言わんばかりの、稠密、各方向の知識総動員な論調で突っ走ってゆきます。
 まさに「オレオレ」
 
 何か、褒めてるのかクサしてるのか分からない評になりましたが、まとめて言うと、本作は、良い方にも悪いほうにも噴出し続ける東京パワーと、内藤先生の旺盛な創作意欲とがぶつかり合って生まれた奇書だと思います。

写真集感想

 先月、県立図書館から借りた写真集の感想を記そうかと思います。
 一度は返却期限が来てしまったのですが、十分目を通していなかったので、延長しました。
 
 まずは植田正治の本。
 長いキャリアをコンパクトにまとめたものなのですが、それでも全体を俯瞰してみて、はっきりと分かるひとつの特徴があります。
 植田の写真は、余分なものを一切画面に入れていません。
 そのため、対象となるものの形が強調されます。とても絵画的だと思います。
 何でも撮れてしまう写真だからこそ、逆に不要なものは写さないということが大切だなと考えさせられました。