新型コロナが全世界的に流行してますね。
アメリカについで感染者が多いのがブラジルだそうです。
私は昔からブラジルの著名な音楽家のミルトン・ナシメントのファンなのですが、たしか結構高齢になっていたはずなので、ふと不測の事態がありはしないかと頭をよぎりググってしまいましたよ…。
どうやら変なことにはなってなさそうなので一安心しました。「最近はあんまり聴いてないな~」などと思いつつ最新の情報を調べていると、いつのまにやら伝記「ミルトン・ナシメント “ブラジルの声”の航海<トラヴェシア>」が刊行されているのを発見しました。
そうそうこういうのが読みたかったのです。早速アマゾンでポチりました。
まだ最初の方しか読んでないのですが、幼くして両親と別れてしまい養父母(しかも白人の)の元で育ったという生い立ちがあったのですね~。ドラマチックです。
私がミルトン・ナシメントの音楽にはじめて触れたのは中学3年のころですね。地元の古本屋で100円で売っていた「ベレーザ・トロピカル」というブラジルのポピュラー音楽のコンピレーションCDを手に取ったのがきっかけです。
それ以前はブラジル音楽など一度も聴いたことはなく、そもそもハワイアンか何かかと思って買ったのですが、一聴してその素晴らしさに打たれました。
それもそのはず、カエターノ・ヴェローゾ、シコ・ブアルキ、ジョルジ・ベン、ジルベルト・ジルといった超大御所が勢ぞろいで、お得に18曲のてんこ盛りですが1曲としてつまらない曲が無い!
日本で言うならさしずめ、井上陽水、さだまさし、中島みゆき、桑田佳祐、山下卓郎のヒット曲を集めたようなアルバムです。
しかしそんな名曲ぞろいの中でも9曲目の「サン・ヴィセンチ」は出色で、ミルトン・ナシメントの名が永久に脳裏に刻みつけられることになりました。
何というか、出だしから美しい裏声で、リズミカルな曲でありながら宗教音楽のようにも聞こえる今まで聴いたことのない音楽でした。
17曲目の手製楽器集団“クアウチ”とコラボしたという「アニマ」も、曲調は全然違うもののスピリチュアルな曲でこれまた素晴らしかった…。
ミルトンの写真を見たのもこのアルバムのブックレットが初めて。(↑の赤丸の人)
何となく白人かと思っていたのでちょっと意外に思った記憶があります。
ジョルジ・ベンの曲とかは如何にも黒人っぽいファンキーな曲なのですが、ミルトンの曲はファンキーとはかけ離れた上品な曲なので図らずも誤解してしまったのでしょう。
それ以来レコード店に行けばブラジル音楽コーナーを覗くミルトンフリークとなり、集めたCDは28枚にもなっていました。
一番収集熱が高かったのは大学生の頃ですね~。
新宿や渋谷のレコファンやディスクユニオンなんかに足繁く通っていました。
穴場だったのは意外にも大学の近くにあった京王多摩センター駅の「Tahara」
他所ではほとんど見かけたことのないアルバムが置いてあり、驚喜したものです。授業をサボってよく行っていました。
下はそこでの釣果、「ミッサ・ドス・キロンボス」(左)と「ミラグリ・ドス・ペイシェス」(右)
そんな思い出深い店でしたが、2009年の大晦日に閉店したそうです。時代の流れとはいえ残念ですね。
ミルトン・ナシメントの音楽には宗教的とも言いたいような神秘的な雰囲気があり、それでいてポピュラー音楽としてもばっちりな親しみやすさがあり、サイコー!!!と思うのですが、やはり長いキャリアで多くのアルバムをリリースしていると「これは…」というのもあります。
いや、もしかしたら聴く人が聞けば素晴らしいとか、時代が追い付いていない系かも知れませんが、ちょっと普段気軽に聴くにはキツイものもいくつかあります。
実は上の2枚もモロそういうやつで、私も数回しか聴いたことはないです。
「ミッサ・ドス・キロンボス」なんか、サンバとカトリックのミサが融合したような、日本人の感性からは遠くかけ離れたもので、ミルトンの入門盤としてこれを聴かされた人は前世がブラジル人じゃない限りは二度と聴くことは無いんじゃないかと思います。
そこで自分的におすすめしたいアルバムを5枚ピックアップしてみました。
- 1978年 クルビ・ダ・エスキーナ2(「街角のクラブ2」上段左)
- 1980年 センチネラ(「歩哨」上段右)
- 1982年 アニマ(下段左)
- 1983年 アオ・ヴィーヴォ(「ライブ」下段中央)
- 1985年 エンコントロス・イ・デスペヂーダス(「出会いと別れ」下段右)
う~ん、見事に70年代末~80年代中盤に偏りましたな。この辺りがキャリア全盛期でしょう。
90年代以降になると声にちょっと陰りが出てくるように思います。
2000年以降はー、実はあまり聴いていません…。
クルビ・ダ・エスキーナ2
「ベレーザ・トロピカル」で知った「サン・ヴィセンチ」は72年の「クルビ・ダ・エスキーナ」に入っていて名盤なのですが、78年の「クルビ・ダ・エスキーナ2」はさらに充実し楽曲も粒ぞろいなのでこちらを選出しました。
これをキャリアNo.1に挙げるファンも多いはず。70年代を総括するかのような大傑作だと思います。
センチネラ
いきなりミサ曲から始まるという、ミルの趣味駄々洩れのアルバム。これは好き嫌いが分かれるかも知れません。
しかし4曲目、超絶名曲「カンサォン・ダ・アメリカ(アメリカの歌)」に全てが救われます。
これが「ミッサ・ドス・キロンボス」方面に暴走して行くんだな~と思うと感慨深いものさえあります。
作家性と大衆性が危ういバランスをとる一作ですがー、私は押します。
アニマ
これは表題曲が「ベレーザ・トロピカル」に入ってるやつですね。
全編スピリチュアルな雰囲気とキシリトールガムのような清涼感に包まれた傑作です。
アオ・ヴィーヴォ
ライブアルバムはいくつか出てますが迷うことなく一番に押せる作品です。
キャリア絶頂の瞬間ではなかったというような、艶のある声。
1曲目「コラソン・デ・エストデンチ(学生の心)」の抑揚を付けながら終盤にかけて徐々に盛り上げていく歌唱が素晴らしい。
11曲目のガル・コスタとデュエットで歌う「ソーラー」がライブのハイライト。
エンコントロス・イ・デスペヂーダス
個人的にイチオシ作品。
シンセサイザー使いまくりでいかにも80年代臭が漂うのはご愛敬ですが、粒ぞろいの楽曲が揃っています。
白眉は7曲目の「プラ・エウ・パラール・ヂ・メ・ドエール」と、10曲目のクララ・サンドローニとのデュエット「ア・プリメイラ・エストレーラ(一番星)」ですかね~。
著名なギタリストのパット・メセニーが参加している11曲目の「ヴィードロ・イ・コルチ(ガラスと切り傷)」は全編スキャットで歌われアンビエントな雰囲気です。
つらつらと書いているうちにまたミルトンの曲を聞き直したくなってきました。
御大はたしか糖尿を患っていたと思うので、コロナに感染することないよう祈っています。