2019年の写真

2020年、あけましておめでとうございます。
今年も明けてはや四日経ち、9連休も残すところあと一日…。

去年は仕事、家庭ともに忙しくブログを更新することがあまりできませんでしたね。
今年も多分同じか、それ以上に忙しくなると思うので更新間隔が空くと思いますが、細々と続けていきたいです。

昨年は3月に須田一政先生が逝去されたことが自分的には最大の訃報ニュースでした。
忙しいこともあって写真から心が離れていた一年でした。

デジカメはスマホに乗り換えてぼちぼちと撮ってましたが、フィルムカメラの方は埃を被りっぱなしで、撮ったのはわずかに1ロールだけです。
お正月にやっと時間が出来たので現像してみました。
驚いたことに一昨日の夏からの写真が含まれていて、どんだけ撮ってなかったのかと痛感しましたよ。

これが一昨年の夏頃撮ったものです。

近所の反町公園で消防団(?)が何かの訓練をしているのを階段の下から見上げるように撮ったもの。

家の近所に消防署があるので多分そこの団員さんたちだと思います。

このお正月は救急車のサイレンが頻繁に聞こえました。お餅…?

これは一昨年の夏の終わりごろに野毛山動物園で撮ったものですね。
たしかウサギとかモルモットとかとの触れ合いが出来た記憶…。
親子連れが多かったですね。

これは昨年のお正月に行ったハワイでの一枚。
ハワイ旅行の記事にスマホで撮ったほぼ同じ構図の写真を載せてますが、フィルムで撮ると50年くらい過去にタイムスリップしたかのように見えますね。

これはいきなり最近。
大晦日に家の周りをブラブラして撮ったものです。
大綱金刀比羅神社という反町駅から横浜に抜けるトンネルを出て直ぐのところにある神社にふらっと立ち寄ったところ、本殿の脇に強烈インパクトの天狗像が…。

これはそのまま横浜港のほうまで足を延ばした際に撮った市場に積まれたパレットの山ですね。なんの変哲もないですが、港町らしい風景ということで。

ここからはフィルムではなくスマホで撮った写真編です。

GWに行った大阪は通天閣の景色。
コテコテでんな。
大阪はフィルムでも撮っていたのですが出来上がりがイマイチ――というか、露光がおかしくまともに写ってるものがありませんでした。多分露光計の電池が切れてたんだと思います。

これは……? 何だろう??
5月に実家に帰った折に、平尾台に遊びに行った時に見つけて撮ったものです。

これは地元の駅(反町駅)の長い長い階段を登ってる時に突然撮りたい気分になって撮ったもの。時期は10月ごろ。
今年の6~9月は特に忙しかったので、帰ってくるのはいつも深夜。こんなに人がいる時間に帰ってくることはできませんでした。
なので「あ~、人がいっぱいいる~」と妙な安堵感に打たれたのを覚えています。

これは大晦日に撮ったものかな。
横浜駅のそばの浅山橋下に鯉がいっぱい泳いでいて、そこに餌を放っている親子連れの姿です。

これも同じく大晦日に撮ったもので、家の近所の学校。給食の調理場っぽいところですね。
夕日を浴びて残り少ない2019年を刻んでいる時計。

訃報 須田一政

このブログでもたびたび記事にさせてもらった、写真家の須田一政さんが今日お亡くなりになったそうです。
老衰とのことですが、まだ78歳で早いですね…。
たいへん残念です。

東京都写真美術館

しばらく改修工事で閉館していた東京都写真美術館ですが、この間リニューアルオープン後初めて訪問しました。

この前行ったのは2013年に行われた、須田一政の「凪の片」、なので3年以上前になりますか…。
その時の印象でも、すごくきれいな施設だったので、果たしてドコに改修が必要だったのか? 疑問です。
それにしても、リニューアル後の愛称「TOPミュージアム」は少し尊大ではないかと思ったのですが、「TOkyo Photo」の略称でもあるそうです。

立派なエントランスですがー、前も確かこんなだったはず。
中の様子で気づいたことは、前に1Fにあったショップが2Fに移っていました。
で、元ショップだったところはカフェに。
それからエレベータの中の照明が雪明りのような凄い間接照明になっていて、これには驚いた!

ともあれ開館20周年にあわせた改修事業だったようで、記念の展覧会が2本行われていました。
「TOPコレクション 東京・TOKYO」と「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」
要するに東京をテーマとして、東京都写真美術館の収蔵コレクションと、新進作家との二本立てで行こうとということらしいです。

前者のTOPコレクションのほうを観ました。
展覧会は写真NGだったので、印象深い写真をパンフレットとともに振り返ろうかと思います。

この展覧会は東京都写真美術館の貴重なコレクションを「どや、すごいやろ?」する展覧会なので、時代は終戦直後から始まります。
冒頭に、あの銀座のバーで飲む太宰治を撮った有名な写真(教科書とかにも載ってましたね)が登場。
で、戦後復興期の写真がズラズラ並びます。作家は東松照明、石元泰博、高梨豊ら。

時代は下って、80年代からバブル期の作品となり、アラーキー、森山大道、土田ヒロミ、鬼海弘雄らの作品が見られます。
初めて知った作家の印象深い作品もたくさんありました。

これは島尾伸三の「生活 1980-85」から。
私も当時このくらいの子供だったので、この家具や本棚の感じが当時を思い起こさせてくれます。
そしてよくマジックで落書きして怒られたな…。

これは中野刑務所。撮影は宮本隆司。
83年だそうですが、中野に刑務所があったとはー。

2000年に「TOKYO NOBODY」で話題になった中野正貴の撮った渋谷(1991年)
今とは色々違っていて興味深いです。

これは小林のりおの「ランドスケープ」より、1984年の作品。
右の写真にはハッとさせられてしまいました。
これは八王子の南大沢ですが、2000年ごろ近くの大学に通ってたんです。
時代は違うのですが、バブル崩壊の影響で建てかけで放っておかれたマンションがたくさんあり、まさに写真の光景が広がっていました。

そして須田先生ッ…。相変わらず黒い。
「東京1980」から。
何枚か展示されてましたが、どれも縦に撮ったものだったのが不思議。

2000年以降の作品群では、なんといってもホンマタカシ推しがすごかった。

印象に残ったのはコラージュで東京を再構築した、西野壮平のDiorama Map Tokyo(2004年)
こうして見るとなんのこっちゃゴチャゴチャして分からないのですが、実際に会場で観ると(80cm四方ある)本当に細かく、丹念に組み合わされていて、その労力に頭が下がります。

さて最後のブースはなぜか写真撮影OKでした。

まるでジオラマのような独特な手法で撮る、本城直季の東京タワー。

ジャンプしてる「私」を撮る林ナツミの作品。

著名な作家の作品が見れたのもさることながら、近年の新進作家のユニークな作品にも触れることができてよかったです。

この日は、恵比寿ガーデンプレイスのウィンターイルミネーションの最終日だったので、駅に戻りつつスナップしました。

須田一政『凪の片』トークイベント

東京都写真美術館で展示中の須田一政『凪の片』ですが、11月2日、そのトークイベント第二弾に行ってきました。(前回の記事はコチラ)

前回は昼過ぎに行って整理券10番台が余裕で取れたので、今回も同じくらいの時間で行ったところ、なんと50番台!
ヤバイ、油断してたら入れなかったかも。
この人気の違いは、ゲストの違いかもしれません。
今回のゲストは写真家の鈴木理策さん。
不勉強なもので存じなかったのですが、木村伊兵衛賞を獲った高名な写真家だそう。
坊主頭にヒゲで、ガッチリ系という何かを感じさせずにはいられないルックスです。
お二人の関係は同じ東京綜合写真専門学校出身ということ。
同校で鈴木さんが卒業後、助手として働いていたところ、須田先生の受け持っている授業を手伝うことになり親交が深まったそうです。

さてトークイベントが始まる前に、会場入口そばの本屋で物色していたところ、ななななんと、須田先生降臨!
ジャンパーのような黒ずくめの服に身を包んだ先生は、想像以上に小柄な方でした。
ご自身の作品の並べられたコーナーで写真集を手に取ってご覧になっていました。
そう言えば、「わが東京100」が復刻され、平積みになっていたのですが、そのお値段¥8,400!!!
「高すぎやしませんか?!」
と、とうぜん言えるはずもなく、遠巻きに眺めるしかなかったのでした。

整理券は後のほうだったので、会場に入った時には既にだいぶ席が埋まっていましたが、幸いにも前列の席が開いていました。
で、定刻になって須田先生、ゲストが入ってこられると、先生はほぼ目の前のテーブルに座られました。
ラッキー!
鈴木さんはスクリーンを挟んでちょっと離れたテーブルに座られました。
東京都写真美術館の学芸員の丹羽さん(女性)が司会で、先生と鈴木さんの対談が進んでいきました。

前回のトークイベントで、須田先生あまり話しておらず「寡黙な方なのかな」と思ってたのですが、今回はけっこう話され、しかもたくさん笑いをとっていました。
どうも前回はゲストの鈴木一誌さん(この人も「鈴木」だわ…)が喋りまくってたので聞き手に回ってしまったようです。
対談は1時間半で、色々な話題を、しかも長く話されたので、お話自体は大変興味深く面白かったのですが、メモしていなかったので大分忘れてしまいました。
覚えている印象深いエピソードを思いつくまま書き出してみます。

恐山

『凪の片』でも最初期のシリーズとして恐山の写真が展示されていますが、その当時は恐山を撮るのが流行ったそうです。
内藤正敏なんかも撮っていますね。
で、須田先生は東松照明の撮ったものが最もその場所の雰囲気が出ていて良いと考えているそうです。
でも東松照明の様に撮ろうと思っても、それは東松氏の空間感覚のなせる技なので、ダメだったとか。

須田先生と鈴木理策さんは一緒に恐山に行ったことがあるそうです。
(それが「Piles of time」という写真集にまとめられて鈴木さんは木村伊兵衛賞を獲った)
途中の道中で色々と写真論を交わしたそうですが、先生はすっかり忘れたとか。
鈴木さんは、須田先生の写真を撮る早さに舌を巻いたそうです。
逆に先生は、鈴木さんの手水舎の柄杓から滴っている水滴に何度もシャッターを切る姿に、作家独特の視点を見て感心したとか。

変わりたい?

須田先生は、かなり初期から「須田調」と言われる黒っぽい画面を完成していたのですが、お世話になった写真評論家の方に「黒焼きに頼りすぎてる」と言われ、画風を変えようと苦心した時期があったそうです。
先生はカメラへの執着はほとんどなく、個展が終わると機材を売却してしまうそうです。
そんな風にカメラを次々と代えて新たな方向性を模索したそうですが、結局何も変わらなかったと仰っていました。
先の東松照明の話とあわせて考えると、写真家というのは持って生まれた固有の空間感覚、色彩感覚、トーンの感覚を表現するものなのかなと思います。

写真と妄想

以前はそうでもなかったそうですが、この頃「妄想」に突き動かされて写真を撮ることが多いそうです。
「妄想」というのは、まあイマジネーションのことなのでしょうが、先生が「妄想」と仰っているので「妄想」とします。
よく写真を撮るルートの途中に廃屋があるそうです。
どこにでもありそうな廃屋なのですが、非常に妄想を掻き立てられるそうです。
廃屋の軒先にひょうたんがいくつかぶら下がっていて、そのひょうたんに水が溜まっていて、そのせいで不規則に揺れるのだとか。
夜にその場所を訪れると、近くの自販機の灯りがフットライト気味にそのひょうたんにに当って、この世のものとは思えない不気味さを醸し出しているのだそうです。
そんな風に、一見つまらない風景からいろいろと観想して撮ることが多いとか。

ショートスリーパー

先生はまともに布団で寝ることは無いそうです。
いつもカウチなんかで3時間くらいしか寝ないとか。
夜中にフト目覚めて、車に乗って写真を撮りに出掛ける事も多いそうです。

ホーム

生まれも育ちも下町、神田の須田先生。
写真学校の授業や、以前やっていた「須田塾」なんかでは神田から出発してその周辺でスナップ写真を撮ることが多かったとか。
地域の旨い料理屋や居酒屋などにも精通しているそうで、時間が終わりに近づくと一杯やりたくてウズウズしてくるそうです。
「旨いものを食べたり、旨い酒を飲むのを第一にしてきた」と仰っていました。
その態度、見習いたいです。
しかし新宿、渋谷なんかはアウェー。
どうにも落ち着かず「早くお家に帰りたい」と思うそうです。

写真を見られる興奮

今回の写真展のタイトルでもあり、最新シリーズでもある「凪の片」は学芸員の丹羽さんがセレクトしたそうです。
しかも、須田先生の目の前で選ぶことになり、たいへん緊張したとか。
で、先生の方は作品を選ばれることに高揚感を覚えたそうです。
そう言えば前回の対談でも、他人の目を通して自分の作品がどう見られるのかということに興味を覚えると仰っていました。

「変態」と言われて興奮

鈴木理策さんからのタレコミ。
街中で撮影していると上記のような心ない言葉を浴びせられることがあるそうな。
許可も取らず、盗み撮りのような真似をしている方が悪いという意見もありますが、そこはひとまず置いておいて。
で、そう言われたその晩、先生は興奮して眠れなかったそうです。
何故…?

マネキンを撮って興奮

前回もちょっと話してらっしゃいましたが、先生のマイブームはマネキンを撮ることだそう。
早朝四時に、千葉から銀座まで出てきて、ショーウィンドウのマネキンを撮るそうです。
朝、掃除などをしている人たちの間では「また変なオヤジが来た!」と囁かれているとか…。
近頃では慣れたもので、15分くらいで撮影ルートを回れるようになったと仰っていました。
何故マネキンなのかというと、先生はもともと人体の一部分にフェチズムを覚えるタチだったそうです。
それで、最近のマネキンは筋肉の付け方など、かなりリアルになってきていて、生身の人間以上にすら感じられるそうです。
更にマネキンの足首には固定するために留め金がついているそうですが、それが「美しき囚われ人」というSM的な妄想を掻き立てられるそうです。
そう言えば先生の近著に「RUBBER」というSM的な作品があり、ちょっと自分には意外に思われたのですが、SM嗜好は先生の中では以前から持っていたもののようですね。

一連の対談を聴いて、「ああ先生まだまだ元気だなァ」と変に(?)安心しました。
ひょうたんとマネキンの写真、是非とも見てみたいです。
さらなるご活躍を期待しています。

最後にこの日の恵比寿ガーデンプレイスの風景を。
もうクリスマスツリーとは気が早い。

須田一政写真展『凪の片』

さる十月五日、恵比寿にある東京都写真美術館に須田一政の写真展『凪の片(なぎのひら)』を観に出かけました。
タイトルの『凪の片』とはパンフレットによれば、

「凪(なぎ)」という風が止まる時間特有の感触に似た、日常と非日常を往還するような作家の視線が、一片(ひとひら)の写真となって降り積もっているかのような展覧会です。

なのだそうです。

今回の展示は、代表作「風姿花伝」シリーズを含む80年代くらいまでの作品群に加えて、最新未発表作品シリーズ「凪の片」を展示しちゃおうという、コンピレーションアルバムのような構成。
これさえ観ておけば須田一政のことはだいたい分かっちゃうという、便利な展覧会です。
しかし、わたしのような須田フリークにもおやと思わせる作品も展示されており侮れません。

構成

『赤い花』(展示数40点)

1968年から1975年の初期作品群。
2000年に同名の写真集にまとめられて出版された。
写真展としては初お披露目となるそうだ。
しかも写真集に収録されていない作品も見られ、興味深かった。

『恐山へ』(展示数25点)

1963年発表。
これは全く初めて観るシリーズだった。
最初期の作品ということもあり、非常に興味が掻きたてられた。
しかし、プリントが小さかったのがちょっと残念。
そしてかなり内藤正敏っぽかった。

『風姿花伝』(展示数25点)

代表的なシリーズ。
1978年に同名の写真集にまとめられて出版された。
何度も展示されていて、写真集でも見慣れていることもあり、特に感動はなし。
BLDギャラリーで50インチの特大プリントを見たあとでは尚更か。

『物草拾遺』(展示数50点)

1982年発表。
一部は『人間の記憶』に載っているが、これも初めて観たシリーズ。
被写体を単体で切り取った作品が多い。
パンフでは「即物的」と表現されている。

『東京景』(展示数60点)

今回一番展示点数が多かったシリーズ。
70年台に撮りためた膨大な東京の写真をまとめたもの。
全て初見で、これも面白かった。
しかしどういう訳か展示のされ方が他に比べて若干ぞんざいだった。
首都としての東京ではなく、生まれ育った場所としての東京が写し出されている。

『凪の片』(展示数20点)

未発表の最新作。
現在の住所のある千葉の風景をメインに収めている。
他の作品群とは急に30年も離れてしまうわけだが、特に違和感なく見れた。
しかし、人物をメインに撮ったものは一点だけ(しかも細君)
あれほど人物を撮っていたことを考えると、嗜好に変化が生じたのかなと思う。

その他

『人間の記憶』にたくさん載っていた、ミノックスで撮った写真のプリントがケースにて展示。
それからかなりの年代物と思われるカラープリントもケースで展示されていた。

展示自体でもかなり見応えがあったのですが、それだけのために600円を払うわたしではありません。
今日は、作家とゲストによる対談が予定されていたのです。
ゲストはブックデザイナーの鈴木一誌氏。
『人間の記憶』を手がけられた方と聞き、興奮します。

そこで正午ごろに受付に行き、整理券を受け取りました。
番号10番。
ヨッシャ!と思うのと同時に、70人のキャパが埋まるのか心配になりました。
しかしそれは杞憂、15時からの開場15分前になり1Fの会場前に行くと、ズラズラと並んでいます。
10番なのですぐに案内されましたが、どこに座ろうか悩みました。
対談席の真ん前が空いていましたが、それは憚って、中央の後方よりに座りました。
定刻になると会場はぎゅうぎゅうのスシ詰め状態となり、先生の人気ぶりが実感出来ました。
やはり年配の方が多かったですが、若い人もチラホラ見ました。
女性よりは男性が多かったです。
現在ドキュメンタリーを撮っているそうで、ビデオカメラも入っていました。
そのドキュメンタリー、出来たらぜひ観てみたい。わたし写ってるかな?

須田先生と、鈴木さんが入ってきます。
なんか数年前に見かけたより元気に見えました。
御年70を超えていらっしゃるはずですが、頭も黒黒としています。

対談は鈴木氏がインタビュアーとなる形で、『人間の記憶』編集当時のことや、雑誌連載を振り返りながら進められました。
対談中、鈴木氏が色々と須田一政の作家性について定義しようとしているのに対し、先生の方はそれを否定はしないものの、「ただ撮っているだけ〜」というクールな立場のように見え、そこが面白かったです。
アレヤコレヤ考えながら撮るのではなく、ガーっと撮って意味はあとから考える(あるいは評論家に任せる)というのが実際のところのようです。
今でも一週間に100カートリッジくらい撮られるそうで、意欲に衰えは見られません。

内藤正敏先生と飲んだというこぼれ話が出て、はっとします。
須田先生と内藤先生。どちらも好きなのですが、ふたりともモチーフや表現に共通点が感じられ、影響しあっているのではと睨んでいたのです。
内藤先生は機関銃のように話されるタイプだそうで、饒舌な写真集のあとがきから受ける印象とピッタリで、思わず笑ってしまいました。
須田先生は寡黙なタイプなので、そこは対照的ですね。

スライドを使って、最新作『凪の片』の解説がありました。
須田先生はユーモアのある方で、一作一作解説するたびに聴衆から笑い声が漏れていました。
最近ハマっているのは、「踏切」と「マネキン」らしく、「千葉のマネキンは東京のとは一味違う」というコメントに爆笑。

最後に質疑応答。
何度も聞き返しておられる場面があり、お耳が遠いなという印象。
質問も要領を得ないものが多かったです。
その中で、「人物を撮影する際に許可を得ているのか」という質問におおきな関心を覚えました。
答えは「取ってない」
やっぱり!
というのも、写真集を見ていると立小便しているところを後ろから撮ったものが結構あり、絶対許可取ってるわけないよなァと以前から思ってたのです。
クレームを言われた場合は耳が遠い振りをしてやり過ごすのだとか…。
往年の疑問が氷解したので、さらに立小便姿を撮る意図を質問しようかとも思いましたが、あまりにも悪目立ちしそうなので止めました。

2時間のプログラムでしたが、あっという間に過ぎていきました。
良かったです。

1Fのミュージアムショップ。
ここには大量の写真集が販売されているので、東京都写真美術館を訪れた際に立ち寄るのが大きな楽しみとなっています。
早速Getしました、『凪の片』のカタログ

お値段¥2,800+税
これは良心的な価格だと思います。
しかもサイン入りを手に入れられてホクホクです。

さて、たぶん展示会に合わせて須田先生の写真集が取り揃えられており、目を楽しませてくれました。
『角の煙草屋までの旅』は喉から手が出かかったのですが、今回は見送り。
¥5,040
(出せなくはないが…。いや無理だ)

目を惹いたのは、アキオナガサワパブリッシングから出ている『Early Works 1970-1975』
風姿花伝以前の作品を集めたもので、レア度の高いもの。
しかも5種類のイメージカバー、サイン&ナンバー入、ハードカバー、スリップケース入と至れり尽くせりの豪華本です。
お値段、¥21,000
高ーーーいッ! 高すぎます。
アキオナガサワパブリッシングからは他にも、『1975 三浦三崎』という『風姿花伝』に収録された、あの有名な蛇の写真とそのバリエーションを収めた大型本が置いてあったのですが、こちらもお値段、¥18,900
高いッ!!!
『Early Works 1970-1975』の方はまだ、250Pもあり、高いといえど納得出来ないこともないです。
しかし『1975 三浦三崎』はたったの6P
1P当たり¥3,150ですか?!

ファンとしてはどんな形でも世の中に出ることを歓迎しないわけにはいきませんが、これでは一部のコレクターのみにしか手が届きません。
ライトな層とはますますかけ離れていって、一部のマニアの趣味になっていってしまうような気がします。
かと言って、普通の値段で売って何万部も売れるかといえばそうではない。
まさにブートレッグCDと似たような構図。
なので批判することは出来ませんが、もっと庶民に手の届きやすい値段で売って欲しいというのが偽らざる本心です。

その他に気になった本は、牛腸茂雄の『こども』と『見慣れた街の中で』の新装版。
鈴木清の『流れの歌』の新装版。
それから洋書で、Bernd & Hilla Becherの“Stonework and Lime Kilns”という本が気になりました。
訳せば「石造物と石灰窯」となりましょうか。コンクリ工場やコンビナートの写真を集めた作品です。
作者は、あとから調べたところ、ドイツ人の夫妻のようでした。
しかしこれも一万円以上したので手が出ず。

カタログから、展覧会で印象に残った作品を引用させてもらいたいと思います。

まずは、今回初めて観た、最初期のシリーズである「恐山へ」

シリーズの中では、この着物の女の子たちが何故かジュースを捨てている作品が特に気に入っています。

イタコを撮った写真も黒黒として凄い。
この時の話として、当時夫人を亡くされたばかりだった写真評論家の田中雅夫氏が同行し、イタコに夫人の霊を降ろしてもらったそうです。
しかし、イタコの口から語られた夫人の言葉は何故か津軽弁で、まったく聞き取れなかったそうです。
笑っていいのか悩むエピソード。

次は、「物草拾遺」から。

左下のお嬢さん。
まさかこの日の奇天烈な格好が永く写真史に残るハメになるとは思ってなかったろうなぁ。

右の写真。
一見、樹の枝が邪魔なようですが、無ければ相当単純な写真になっていたはずです。
須田先生のバランス感覚の真髄を見たような気がする作品。

「東京景」から。
右の写真の少女たちの爽やかな表情が素晴らしい。
左に老婆を持ってきたのは狙ってのことでしょうか…。

最新作「凪の片」から。

画面の下に小さく少女の姿が写っていますが、撮った時には気が付かなかったそうです。
え〜、スゴイ。ホントですか?
空と海の大きさを表すうえで劇的な効果をもたらしています。

そして今ハマっているという踏切。
まるでこの世とあの世の境のような、異様な雰囲気を作り出すことに成功していると言えないでしょうか。

須田一政塾13期

 やっ、やったッ!
 今日何気なくブログを見ていたら、ななななんと、七月から始まる須田塾メンバーを募集しているではないですか。
 いつかはわたしもと思ってきたのですが、「まだはもうなり」です。脊髄反射的に、13期の東京須田塾に応募してしまいました。
 定員は十五名。先着順です。
 受かってるといいなぁ。

人間の記憶

 今日は神保町に行ってきました。
 お目当ては、須田一政の「犬の鼻」です。以前に「風姿花伝」を買った、魚山堂書店に入荷されたとの情報をキャッチしたのです。
 ところがぎっちょん。既に売り切れていました。
 目的を失ったわたしは、とぼとぼと本の街を当て所もなくぶらぶらしていたのですが、たまたま入った「源喜堂書店」という店で目にした背表紙に、「あー!」と声を挙げたくなりました。
 ななななんと、先日県立図書館で借りて大感銘を受けた、「人間の記憶」がそこにあったからです。
 しかも手にとってみると、帯はないものの新品同然の素晴らしい状態でした。
 値段は——、一万八千円。「犬の鼻」に使うつもりだった予算にほぼ収まります。さっそくレジに並びました。
 帰り道はずっしりとした重みが嬉しかった。
 実際に足を運んでみなければ判らない、神保町は奥が深い街ですねえ。

須田一政 「人間の記憶」

 神奈川県立図書館から、須田一政の著書、「人間の記憶」と、岩波書店から出ている「日本の写真家」シリーズのタイトル、そして写真を手がけた、荒俣宏の「開かずの間の冒険」を借りてきました。
 特に、「人間の記憶」 これがすばらしい。本当にすばらしい。
 248枚からなる、充実の内容です。表現の多彩さ、深い情感はA4版の迫力とも相まって、つよく胸を打ちます。
 是非とも手に入れたいと思う一冊です。

街撮主義 −我−

 今日は訳あって、サブマシンからの投稿です。
 近頃グズついた天気が続いていたのですが、日中は晴れて気温も上がり、夏らしい陽気になりました。そこで気分もそぞろ、街(秋葉原)に繰り出しました。
 買い物が済んだ後、浅草橋まで足を伸ばして、 須田一政写真塾の修了展を見に行きました。マキイマサルファインアーツで開かれたこの展覧会のタイトルは「街撮主義 −我−」
 十四名のお弟子さん達の作品が、それぞれ十点くらいずつ並べて展示されていました。面白いのが人によって大判だったり、8センチ四方くらいのサイズだったりバラバラ。カラーもあればモノクロもありと個性豊かでした。
 一番須田先生の作風に近いと感じたのは、古田哲久氏の作品でした。モノクロで、情緒を色濃く感じさせました。個人的に気に入ったのは、東南アジアの街角を撮った志野和代氏です。目に染みるようなけばけばしい色合いの作品でしたが、そこがかえってモチーフにマッチしていました。
 
 同じギャラリーの一階では(須田塾は2F)「擬態美術協会」という別のサークルの作品が展示されていていました。わたしの目当ては修了展だけだったので、観ないで帰ろうかと思ったのですが、スタッフの方に是非にとも勧められたので、見てみることにしました。
 すると中は白い部屋。絵の一枚も掛かっていません。代わりに天井に透明なビニールチューブが張り巡らされていていました。それは間欠泉のように一定のタイミングでポンプから押し出されてくる水圧でプルプルと震えているのです。
 更に部屋に入った時から、手のひらで耳を押えたときのような「ごおぉ」という音がしていたのですが、その発生源はテープレコーダーでした。ただテープはカートリッジの中のではなく、滑車のような機構に乗せられ壁伝いに部屋をぐるりと取り囲んでいたのです。
 現代アートと申しましょうか。ともかく、わたしの理解を許さない世界です。場違いを感じ、早々に辞させて頂こうかと考えていたら、「とても良い」タイミングでこの作品の製作者の方が入ってこられました。
 その時ギャラリーはわたし一人だけでしたので、この作品について色々とお話が聞けました。とてもシュールな体験をさせていただきました。

須田一政

 以前に買おうかどうか迷っていると言っていた、須田一政の写真集をとうとう買ってしまいました。それも「民謡山河」と「赤い花」の二冊ともです。
 須田一政の写真集の多くは絶版になってしまっていて、手に入れることができません。しかし自身のHPに雑誌に掲載されたものについては公開してあります。中でも「風姿花伝」は素晴らしく、「日常に潜む異常を切り取るようなスナップ写真を得意とする」の評そのままの仕事です。
 「赤い花」は「風姿花伝」以前の未発表作品集です。まだスタイルを確立する前なのか、それほど強い印象を受けませんでした。
 「民謡山河」は同時代の作品なので、全体に「須田節」とでも呼びたい独特の情感を湛えています。どっちかと言われるなら、「民謡山河」を推します。