オーディオについて

今日はオーディオについてちょっとディープに語りたい気分です。

その前に、音楽評論家の中山康樹さんが亡くなっていたことを知ってショック…。
お亡くなりになったのは去年の頭なので、いまさらなのですが、合掌したい心持です。
中山さんといえば「マイルスを聴け!」ですが、わたしもこの本でマイルス・デイヴィス、ジャズ、ブートレグなどを知り、ディープな世界に憧れたものでした。
手元には10年以上前に買った文庫本の“Version6”があります。

しかしそんな情報も耳に入らないくらい音楽というものから遠ざかっていました。
まぁ聞かなくても死ぬものじゃないし、忙しい日々を送っているとどうも気にならなくなります。
ところがこの間ひさしぶりに渋谷のレコファンに入る機会がありましてー。
10年前と変わらない雰囲気にすごく懐かしさを覚えました。
で、五枚買うと2,000円引きというセールを行っていたもので、釣られて五枚購入してしまいました。
ブラジル音楽のコンピレーションアルバムが中心です。
CDを買うのも五年ぶりくらいですねー。
お店で買うのはもっと久しぶりです。

音楽の聴き方なんですが、ウチではもっぱらパソコンとタブレットで聞いています。
CDをiTunesでMP3に変換して、それをサーバに置いてパソコンやタブレットでストリーミング再生できるようにしています。
たぶん音質的にはあんまり良くはないんでしょうが、どの部屋にいても聴けるので便利です。

最近はこのようにカジュアルな聴き方をしていますが、昔は「ピュアオーディオ」的志向も持っていました。
ただ、まず第一にお金がないことと、「オカルト」とも揶揄される濃すぎる趣味性に辟易して離れていきました。
さらにある「事件」で決定的なものに…。
それは肝心の受け取り手である「耳」が終わっているという事実……。

Youtubeなどに耳の年齢をチェックする動画がいくつもアップされています。
齢をとると高い音が聞こえなくなるので、どこまで高い音が聞き取れるかで耳年齢を測定するものです。
試してみたところ、14000Hzから上がまったく聞こえませんでした…。
これは40代に相当するのだそう。

若いころにヘッドホンで大音量で聴いていたのが良くなかったのかー?
今となっては如何ともしがたく、口惜しい限りですが、とにかく超高音まで奏でるツイーターや、CDを超えるような音域を持ったハイレゾ音源が自分にとって無用の長物であることが分かったのです。
そう思えばかえって楽で、苦行のようなピュアオーディオの研鑽からドロップアウトして、「いかに便利に音楽を聴くか」という方向に軸足を移せたように思います。

ところでこの頃腕時計に興味が出てきまして、そこで別の切り口からオーディオ趣味というのを眺めるようになってきました。
まあ似ているところはあまりなく、全然別の趣味なのですが、普及品と高級品とで天と地との価格差があるところがよく似ています。

腕時計の高級品は機械式であることが多く、普及品はクォーツ式が多いですが、どちらが正確かと言われればクォーツ式のほうです。
つまり時計の本来の機能性と価格とがあべこべになってしまっている!
しかしそれでいて何の問題もないのです。
なぜなら高級品の由縁は、精度、耐久性、デザイン、材質、ブランド、etc…、色々とありますが、端的に言ってステータスシンボルだからです。
(なので私はセイコーのスプリングドライブにはあまり意義を感じていない)

オーディオも実は同じことで、お高い由縁はステータスシンボルだからじゃないかと思っています。
装飾品としての面がある腕時計がステータスシンボルになるのは分かりやすいですが、部屋の中で楽しむオーディオがそうなるのはちょっと理解しずらいかも知れません。
しかし必ずしも見せびらかすものでなくてもステータスシンボルになり得ます。
ようするに自己満足(自己確認)のためのシンボル(アイコン)とお考えください。

時計の精度が高級品と普及品とであべこべなように、オーディオも(特にデジタル系)は音質に大差ないのではないかと想像しています。(特に聴いてもないですがー)
マッキントッシュとかJBLとかの高級ブランドを所有するのは、ロレックスやオメガを持つのと同じ匂いがします。
しかし時計は機械式とクォーツ式とで棲み分けられていますが、オーディオだと高級品も普及品も同じエレクトロニクス製品なのでやはり音質で比較されます。
その音質の差はごく微妙なものでも、値段が何倍も違うと「幻想」とも言える期待値の膨張をもたらします。
その幻想がオカルトの由縁のような気がしています。
たとえ高級オーディオを買っても、「私はこれをステータスシンボルだと思うから所有している」と言い切ってしまえば決して「オカルト」と揶揄されることはないんじゃないでしょうか?

コンプリート・ベルリン1973&ガウト

今日はものすごく久しぶりに西新宿のブート街をさまよいました。
以前来たのは2004年か、遅くとも05年じゃないかと思います。
つまり8、9年振り…。
うーん、歳をとるはずですね。

なので、見つけるのに少し手間取りましたが、見つけました。
当時良く行っていたコレクターズCDショップ「ブラインドフェイス」です。

あらら、上の看板が壊れてる。
時の流れを感じさせずにはおりません。
しかし店内の雰囲気は昔とあまり変わりなかったですね。
それで、当時のドキドキ感を少し思い出しました。
とは言え、そんなオドロオドロしいということはなく、普通のCDショップとさほど変わりません。
売っているものが特殊なだけです。

今日ここに来たのはマイルス・デイヴィスのブートレグCDを探しにです。
私のマイルス遍歴を掻い摘んで話しますと、大学時代にのめり込み、好きな時代(70’s)のオフィシャル盤はあらかた聴き尽くしてしまいました。
そこで当時出たてだった「マイルスを聴け!(Vol.6)」を片手に、海賊版CDを求めてここ西新宿や、渋谷「マザース」などをさまよい歩くようになりました。

当時、社会人になりたてで、ある程度自由になる金を手にしたことが拍車を掛けたのかも知れません。
それに当時は70年代を中心に目覚ましい作品の発掘があり、別冊宝島から「マイルス海賊盤ベスト50」などというムックも発売されるくらいの盛り上がりがありました。
(この本いまでも買っておけば良かったと後悔しています。立ち読みで済ませてしまいました)

しかし、ブートレグでも主要な作品を抑えてしまうと「これ以上」というステージはなく、そこからはマイルス、ひいては音楽自体に対する興味も退いていったような気がします。
その後の数年間は、音楽をほとんど聴かず、たまに聴いてもアダルトコンテンポラリーミュージックや、スムースジャズ等の「毒にも薬にもならない」ものにしか接していませんでした。
それで引っ越す度にCDは減っていきましたが、マイルスだけは手放しませんでした。
とは言え、部屋の片隅に置かれたオブジェと化していました。

ところが今年の始めに体調を崩して寝込んでいた時に、退屈しのぎに再び聴き始めたところ、その素晴らしさを再発見し、病気が再発したというところです。
この間、清水の舞台から飛び降りる覚悟でMS-PROを買ったのも「マイルスの音楽をよりいい音で聴きたい」というのがその動機のひとつです。

さてこれだけ時間が経って、当然どうなっているのか気になる昨今のブート事情ですが、想像していたほどの画期的な新音源の発掘は無いようでした。
(残念なような、財布が痛まなくて済むのでほっとしたような)
しかし目を引いたのは既発CDの改善盤のリリース。
つまり、別のもっと音の良いテープを発掘してソースとしたり、デジタルマスターを施して雑音を除去して出し直したりしたものです。
あるいは、中身は全く一緒だけれども、先行がCD-Rなのに対してプレスCDで出したりします。
(なのでブート市場には同じ日、同じ演奏の複数のCDが溢れることになります)
かつて「決定版」と見なされていた作品も、すでにかなりの数がこれらの改善版にその座を追われているようなのです。

特に唸ってしまったのが、1973年のベルリン公演。
これは当時(04年)でも名演が発掘されたと大評判でしたが、残念ながら出回っている音源はモノラルで、かなりモコモコしたもの。
それでもスゴイと思って聴いていたものです
(↓がそのモコモコのCD)

それがななななんと、この間にステレオ化かつ、大幅音質アップを果たしたと言うではありませんか。
これだけは確かめねばと、長いブランクを挟んで、再びブート屋に足を踏み入れた訳です。

そしてこれが、手に入れたブツ!
『コンプリート・ベルリン1973&ガウト』

5,700円!!!
高い! 今どきCDにそんなに金出す人いますか?
コレクターさまさまではないですか。
あ〜、明日からはしばらくお好み焼きを食べる日々が続きます。

とはいえ音は素晴らしい。
究極の演奏をクリアな音質で聴ける悦び…。
無理だと分かっていても先にコッチを聴きたかった。

しかし人の欲望とは限りが無いもので、決定版とも言えるこのCDにも不満が無いわけではありません。
完全にチャンネルセパレーションしたステレオサウンドを謳っており、確かにそうなのですが、逆にチャンネルセパレーションしすぎて左右から聞こえる音が違いすぎ、真ん中の音がスカスカしているように感じます。
バージョンアップ前盤がモノラルで、音像が真ん中に固まっていただけに、かえってその印象が強まります。
特に2トラック目(Turnaroundphrase)の5分過ぎ辺りの、火事場のようなドラム・ソロがほとんど左チャネルからしか聞こえないのは興奮に水を差されるような気さえします。
これがマスターテープからしてそうならば、全くの無い物ねだりですが、何となくデジタルマスターの時点でステレオ感を増幅させる処理を行なっているような気がします。
それが裏目に出ているような気がしてなりません。

新たな「決定版」が出たら。それもまた買ってしまうのかなぁ…。

<ブートについての雑感>

  • 最初のブートレグ
    一番初めに手に入れたマイルスのブートレグは下の「アナザー・ユニティー」でした。

    これは演奏自体の素晴らしさ、音の良さに加えて、プレスCDであること、さらには読み取り面がゴールドという謎の力の入れ方でわたしの心に消えない印象を刻みつけました。
    あとどういう訳か、CDからいい匂いがしてました。
  • 新旧レーベル対決
    「アナザー・ユニティー」は「レジェンダリーコレクションシリーズ」というレーベルの作品で、当時ブラインドフェイスにはこのレーベルの作品が数多く並んでいました。
    なので、今回も「レジェンダリーコレクションシリーズ」の中の「ベルリン1973」が置いてあるものと期待していたのですが、「レジェンダリーコレクションシリーズ」は既に棚から取り除かれていて、代わりに「ハンニバル」という新興レーベルの作品がその場所を占めていました。
    「ハンニバル」のラインナップは他レーベルの既発CDの改善盤がほとんどを占めています。
    つまり他のブート屋さんが作って、売れ筋になった商品を、さらに良い音質で出して売上を奪い取る作戦です。
    今回買った「コンプリート・ベルリン1973&ガウト」もそのハンニバルレーベルのものです。
    買う側にとっては、よりいい音、しかもオフィシャル同様のプレスCDで手に入ることが多いので良いのですが、過当競争に陥って業界の体力を奪うことになるのではないかと、しなくても良い心配をしてしまいます
  • CD-R
    下は、わたしが昔、渋谷の「マザース」で買ったブートレグです。

    なんと、CD-R!
    一体原価はいくらなんでしょうか?
    まるでお金を刷っているようなもの。ブート屋さんは笑いが止まらなかったに違いありません。今はどうか分かりませんが、昔はインターネットで拾った未発表音源をCD-Rに焼き、自分でジャケットを手作りしてヤフーオークションで売ってる人を見かけました。
    やってることは別として、それはそれでクラフツマンシップが微笑ましいと言えないこともないです。
    しかし中には買ってきたブートを、ジャケット、レーベル含めて完全にコピーして売り捌いている輩も見かけました。
    マザースさんは変に欲がないのか、ネット通販をしていなかったため、格好の餌食になってしまっていたようですね。
  • 西の横綱
    マイルスのブートの東(東京)の横綱がマザースなら、西の横綱は名古屋の「サイバーシーカーズ」です。
    「レジェンダリーコレクションシリーズ」もここが出しているもの。
    名古屋には1年2ヶ月ほど転勤で居ましたが、ちょうどマイルスから離れていた時期なので足を運ぶことはありませんでした。
    今調べてみたら、千種なんですね。
    会社のオフィスがここにあったのに!
    もったいない事をしました。何も買わなくても、一目見てくれば良かったです。
  • 「コンプリート・ベルリン1973&ガウト」に対しての最後の小言
    このアルバムはベルリン公演を記録したCD1と、アート・ジャクソンというよくわからないギタリストの「ガウト」という未発表音源がCD2に抱き合わせになっています。
    この関連性は、同時期であることと、アート・ジャクソンをマイルスがサポートしてたらしいということだけ。
    別にマイルスが「ガウト」のレコーディングに参加している訳でもないですし、この薄い関係性でカップリングしたのは強引すぎる気がします。
    ベルリンの人気にあやかって謎のアルバムを売り付けようという意図が透けて見えます。
    音楽的に似ているのかと期待して聴いてみましたが、私的にはもう二度とトレイに載せる気になれそうにない代物でした。
    しかし、中山氏が電子版で紹介しているので、紙のほうの「マイルスを聴け!」でも新しい版からこちらが載るんでしょうかね?

Alessandro Music Series PRO (MS-Pro)

新しいヘッドホンを手に入れたので、そのレポートを書こうかと思います。
もしこのモデルを購入しようか迷っている人がいて、判断の助けとなれば幸いです。

Alessandroというメーカーの“Music Series PRO (MS-Pro)”という機種です。
サウンドハウスという音響機器の通販サイトで注文しました。
アメリカから直輸入しているようです。

値段はあえてここでは書きませんが、結構します。
昨今の円安に焦りを覚えてポチった面もなきにしもあらずです。

小包は長辺50センチほどもあり驚きました。

品物間違えてるんじゃないのかとすら思いましたが、開けると下の通り。
緩衝材で嵩が増されていたのです。

箱はシンプルです。
表にMusic Seriesの三機種のスペックが印刷されています。

蓋を開けて、マホガニーのハウジングと初対面。

取り出して接写します。

サイズ調節は金属の棒で無断階で行えます。
ドライバーは棒を軸としてグルグル回すこともできます。
ちょっと他には見かけないような、オールドファッションドな機構です。
それと、アメリカ製らしい作りの大雑把さで、値段の割にチープだと揶揄されることもありますが、わたしは好きですね。

マホガニーのハウジングは意外と明るい色です。(3枚目の写真が肉眼で見る色に最も近い)
黒いメッシュは経年劣化で剥げると悪名が高いです。
よく見てみると、すでに左の網に二箇所剥げているところを見つけました。
先が思いやられます。

ハウジングには“ALESSANDRO MUSIC SERIES – GRADO LABS”と刻印されています。
これはAlessandroが著名なヘッドホンメーカーのGradoにOEM供給を受けているからです。
Music Seriesの”One (MS-1)”は、Gradoの”SR125i”
“Two (MS-2)”は、”SR325is”
MS-Proは、”RS1i”と同等の製品と言われています。
日本で買うと、代理店を通さないためか、Alessandroの方が安価で手に入る場合が多いので、オーディオマニアにはGradoの廉価版と見なされていますね。
Alessandroは取り扱っている所が少ないため、店頭で視聴する機会は皆無と言っていいでしょう。
MS-2とMS-Proのどちらを買おうか迷っていたのですが、Gradoの同等品(SR325isとRS1i)を聴き比べて後者に決めました。
もともとはMS-2を候補にしていたのですが、SR325isを試聴して止めにしました。
SR325isはアルミのハウジングで、非常にカッコいい見た目なのですが、高音がキツく、ちょっと長い間聴くのは辛そうだったので。
逆に、RS1iは低音が豊かで、暖色系の音です。

付属品としては、標準プラグからミニプラグへの変換ケーブルと、4.5mの延長ケーブルが付いています。

装着感ですが、イヤパッドが耳を覆わず、押し当てるタイプなので、しばらく聴いていると当たっている部分が痛くなってきます。
イヤパッドはザラザラとしたウレタン材です。
Grado製品は付け心地が悪いことで、とにかく悪名高いです。
ただ、ハウジングが木材であることで、メタルの製品よりかは軽く、幾分救われている部分はあります。

音質については使い始めたばかりで、まだ硬い感じがします。低音もまだ十分出ていませんね。
店頭で試聴したRS1iからは遠いです。
我が家のシステムは、CDプレーヤー(KENWOOD DPF-7002)→ヘッドホンアンプ(Cayin HA-1A)→ヘッドホンという構成です。
他にパワーアンプとスピーカーもありますが、今は外してコタツの上に置けるようにしています。
ちなみにヘッドホンを掛けているのは、ダイソーで300円で買ったバナナハンガーです。

いい機会なので、現在所有しているヘッドホンを紹介してみようと思います。
そこからオーディオ観が見えてくるかも知れません。

Alessandro MS-1

Music Seriesの最下位機種ですが、持っているのです。
というかMS-1を非常に気に入っているため、今回のMS-Pro購入に繋がった訳です。
(なのでこのシリーズの装着感の悪さ、作りの雑さには免疫があります)
カラリとした抜けの良い音で、ロックやジャズに適しています。
購入したのはもう8年ほど前になるかと思います。前回もサウンドハウスで通販購入しました。
そのため、現行機種とは世代が違います。
特徴的なのは、現行機種ではケーブルが4芯から8芯になり太くなっています(左が現行機種、右が過去機種)

イヤパッドがオレンジ色をしていますが、これは取り替えたのではなく、汚れたので漂白したらこんな色になってしまったのです。

Sennheiser HD555

これは5年ほど前に川崎のヨドバシカメラで買いました。
イヤパッドが耳をすっぽり覆うタイプで、しかもビロードなのでとても付け心地が良いです。でも夏は辛い。
刺さるところが少しもない、優しい音を出します。
しかしそれだけに、障子越しに聴いているような感じがしないでもないです。

アイワ HP-AK101

生産終了品です。
これはMS-1と同時期に、八王子のヨドバシカメラで購入しました。
アイワにしては高めで、フルオープンエアという意欲的な構造です。夏でも使用に耐える数少ないヘッドホンだと思います。
音質自体はあまり良くないですが、音像が篭らず頭の周囲に定位するところが魅力です。
この頃ヘッドバンドがだいぶくたびれてきました。

これまで、どちらかと言えば安価な、コストパフォマンスに訴える商品を購入してきたことがお分かりになると思います。
今回が初のフラッグシップモデルとなるので、果たして値段通りの買い物ができたか不安であります。
しばらく聴き込んで判断しようと思います。

出張買取

 昨日はすごい雨でした。明け方から雷がピシャーゴロゴロと鳴り続け、生きた心地がしませんでした。
 しかし嵐が去ったあとは、ひんやりと秋めいた天気になり、かなり捗りました。
 
 さて、引越しを機に荷物の整理をしようと思い立ち、ブックオフの出張買取サービスに来てもらいました。
 今回引き取ってもらったのは、CDが122枚、本36冊です。
 最近めっきり音楽を聞かなくなり、ラックの肥やしとなっていたので思い切って処分しました(とはいえまだ半分は残っていますが…)
 引きとってもらった後、電話が来て、買取額を教えてもらいました。一万円弱になりました。
 正直、引きとってさえ貰えればそれで良かったので、意外と値が着いたことに嬉しくなりましたが、よく考えてみれば一枚あたり百円もしてないですね……。
 今までどれだけ浪費をしてきたか思い知らされたような気分です。

クリス・スタンドリング

 連休の間にAmazonで注文していたものが次々と届きました。
 まずはこれ、クリス・スタンドリングのCDです。
 左の渋いオジさんのジャケットのほうが「ラブ&パラグラフ」右のちょっとHなジャケットのほうが「ソウル・エクスプレス」です。
 
 昔はよくCDを買っていましたが、最近はとんと買わなくなりました。趣味としてのオーディオ、音楽鑑賞に「疲れ」てきたのです。
 学生の頃はハードロック、モダンジャズ、ファンク、フュージョン……なんでもござれだったのですが、今ではラックにうず高く積まれたこれらのCDや、ハードディスクに目一杯詰め込まれたmp3が疎ましくてしょうがありません。
 今では音楽は聴かないか、聴くとしてもイージーリスニング系のインターネットラジオをBGM代わりに垂れ流すくらいです。
 
 よく聴くラジオがSky.fmのスムースジャズのチャンネルなのですが、これは良いです。チューンを合わせると部屋が高速道路のSAPAに変わります。
 スムースジャズというのは、言うまでもなくジャズの一種なのですが、伝統的なジャズのようなコースティック楽器ではなくエレクトリック楽器を使用し、最近のポップス同様にコンピュータの打ち込みを多用します。
 またジャズにはつきもののアドリブ演奏はほとんどしないようです。
 曲調は滑らかでクリーンです。
 耳障りの良い音楽が水のように流れてきて、流れ去って行きます。一つ一つの曲に特徴が無いのです。
 昔なら「軽薄」と思ったかも知れませんが、今ではこの軽薄さがとてもありがたいのです。
 
 思えば以前に聴いていた歌は「自分を変えろ!」だの「腐った世の中をぶっ壊せ!」だの「アフロの本能で女を狩れ!」だのというものばかりでした。
 あまりにメッセージ過剰でした。
 たとえ英語にせよそんな歌詞を四六時中聴いていたらくたびれます。
 あるいはインストロメンタルだとしても、抑圧された黒人の怒りが滲んだような音楽で、自然と脈が早くなり、頭に血がのぼるようでした。
 
 クリス・スタンドリングの存在を知ったのはこのSky.fmのおかげです。
 しかし、最初は全然何も感じませんでした。おそらくあまりに滑らかすぎて、精神に作用するものがなかったのだと思います。
 最初に彼の曲を耳にしてたぶん一年以上経ってから、「リキッドソウル」という曲がとてもいい曲で、無意識のうちにその曲がプレイされるのを期待していることに気がついたのです。
 演奏者の名前を見てみると、「クリス・スタンドリング」とありました。
 それから注意して彼の曲に耳を傾けると、どれもとても素晴らしいものばかりだったのです。
 柔らかいギターの音色、暗いがソフトな曲調を知らないうちに大好きになっていました。
 押し付けがましさを排した、職人芸の世界です。
 「リキッドソウル」は「ラブ&パラグラフ」に入っています。
 「ソウル・エクスプレス」収録の「カレイドスコープ」はとても美しく、人に勧めたくなる曲です。

夢を諦めきれない男たち

 以前知人から映画の株主優待券を貰い、しばらく忘れていたのですが、その期限が今月末に迫っていました。
 しかしこの映画館、一日に二タイトルくらいしかやらない(しかもマイナーな作品ばかり)ので、わざわざ街まで出る気にはなれないでいました。
 そもそもわたしは映画というものをほとんど観ないのです。
 しかしふと上映スケジュールを見てみると、興味を引くタイトルが。
 「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」
 なんだこりゃ……?
 興味をそそられて、ようやく重い腰を上げ、何年ぶりかに映画館に足を運んだのでした。
 
 映画はカナダの売れないロックバンド「アンヴィル」を二年くらい追ったドキュメンタリーでした。
 売れないロックバンドなんてそれこそ砂の数ほどあるのですが、彼らがそんじょそこらの「売れなさ」とは訳が違うのは、一時はボンジョヴィ(超有名)、ホワイトスネイク(まあまあ有名)などと肩を並べる存在だったということです。
 映画の冒頭で、八十四年に日本で行われた「スーパーロック84」で演奏する彼らの姿が映し出されます。これには当時のメタル少年は頭を掻いたのではないでしょうか。
 ボンジョヴィが栄光の道を進むのとは対照的に、アンヴィルは坂道を転げ落ち、バンドだけでは食っていけずに、給食の配達人や、建築作業員に身を落とすことになります。
 しかし彼らは、冴えない仕事に身をやつしながらも決して夢を諦めていなかった! 五十代になり、頭はハゲかかってもバンド活動を続けていたのです。バンドを結成してから三十年の月日が流れていました。
 そんな彼らに対する家族の反応はさまざまです。主人公の一人、ロブの姉は「とっくに終わってる」
 でも彼の妻は夢を諦められない夫を擁護します。
 
 ところが降ってわいたようなヨーロッパツアーの話が舞い込んで、事態は急変します。一ヶ月以上に渡ってヨーロッパ全土を巡るツアーです。彼らは幸運の予感に胸を震わせ、それぞれ長期休暇を取って、意気揚々海を渡ったのでした。
 しかし、そこで待っていたのは失望の連続でした。少ない客入り、払われないギャラ、マネージメントの悪さ。苦い気持ちでツアーを終えたのでした。
 「だが、今年はなにかがいつもと違う」と、ツアーの勢いを駆って、彼らは新しいアルバムの製作に乗り出します。
 しかしそれに必要な経費が二百万。
 普通の感覚ではそれほど目を剥くほどの大金でもありませんが、ふだんからカッツカツでやってきて、家のローンも残っている彼らにはそれを捻出する余裕はありませんでした。
 それを救ったのが、もう一人の主人公、リップスの姉です。彼女が涙ながらに弟の夢を応援する姿はこの作品のハイライトと言えると思います。
 そんな家族愛に支えられて完成したアルバムが、アンヴィルとして通算十三枚目となる、「This is Thirteen(邦題 夢を諦めきれない男たち)」でした。
 
 リップスとロブはこのアルバムをショップに並べるために渡米し、ほうぼうのレコード会社を回ります。
 しかし完全なる門前払い。話だけは聴いてくれたEMIにも、「時代遅れすぎて売れない」とまで言われてしまいます。
 「こんなにもいい音楽なのになぜなんだ?」と切れた彼らは、ついに自家プレスに及び、手売りを覚悟するのでした。
 ところが海の向こうに救いの神が。
 アルバムを聴き、興味を持った日本のプロモーターが「ラウドパーク」というロックイベントにアンヴィルを招待してくれたのです。
 そして「This is Thirteen」は、日本ではソニーミュージックからメジャーリリースされることになりました。
 アンヴィルはスーパーロック以来に日本の地を踏みました。
 演奏順としてはキャリアにふさわしくない前座扱いでしたが、幕張メッセに詰めかけた二千人のファンの前で熱演を繰り広げたのでした。
 それはあたかも八十四年の再現のよう。熱い余韻ののこるラストでした。
 
 アンヴィルがこの映画によって、再びスターダムに舞い戻れるのか、それとも元の生活に帰っていくのか、わたしには分かりません。
 でも夢を追い続けることの素晴らしさと厳しさを誰の心にも刻み付けたに違いありません。
 わたしにとっては激励のような映画でした。思ってもみなかったようないい内容でした。
 映画、たまには観てみるのも良いものですね。
 
 画像は映画の内容とはまったく関係ない、映画館の近くの風景です。