パラレルワールド・ラブストーリー

 東野圭吾の作品です。彼の作品は「ある閉ざされた雪の山荘で」、「悪意」、「レイクサイド」などを読んできました。特に「レイクサイド」には感銘を受けました。
 さて、この本は会社の先輩から借りた本です。
 ちょうど二ヶ月前、我々三人は二次会の席を囲んでおりました。若い面子と女の子は去り、役付きだけで飲んでいた訳です。
 話題は今年の初めに結婚した同僚の話でした。ひきかえ我々はみな独身です。「結婚」という言葉から感じる重みはそれぞれだろうと思います。
 先輩は恋煩いで、妙なテンションになっていました。わたしもそれに釣られてついつい深酒をしてしまい、その後二軒も回ってしまいました。最悪な土曜の朝を迎えたのは言うまでもありません。
 そんな微妙な空気の中、手渡されたのがこの本。しばらくうっちゃって置いたのですが、読むものも無くなり、東野作品ということで手に取ってみました。
 う〜ん、しかしこれは…。暇つぶしの域を出ませんでした。ただ先輩が「智彦」のポジションなんだなあってことが察せられました。

スキップ

 最近ミステリ作家の北村薫にはまっています。
 最初に手に取ったのは円紫シリーズの「夜の蝉」でした。殺人事件が起こるわけでもないのに、ぐっと引き込まれる話のうまさと、魅力的なキャラクターにすっかり虜になってしまいました。
 
 この「スキップ」はまた別の「時と人」三部作といわれるシリーズのひとつです。
 代表作ということで読んでみました。
 二十五年の時をタイムスリップしてしまった女子高生のとまどいが実にリアルに描かれています。
 大切な歳月を失っても、前向きに生きようとする姿には胸を熱くさせられました。素直に良い話でした。
 ただちょっと難を付ければ、長い。個人的にはぴりっと引き締まった短編のほうが好きです。

潮騒

 三島由紀夫の「潮騒」を読みました。実は三島由紀夫の作品を読むのはこれがはじめてです。
 三島といえば切腹、それからボディビル、あとは金閣寺。わたしの認識はそんなものです。しかし、本作はいささかの黒さもない、爽やかな純愛ストーリーでした。
 しかしこれがつまらない。ありそうでありえない話です。登場人物に全然感情移入できませんでした。
 そしてよく言われている官能ですが、これもよく分かりませんでした。露になった胸を色々と言っているのです。でもなにも来ない。前回読んだ「伊豆の踊り子」の手足の描写の方がずっと来ました。
 食わず嫌いだったのですが、やっぱり好きでは無かった、そんな感じです。

夏の闇

 開高健の「夏の闇」を読みました。彼の作品としては、陽気な釣行ドキュメンタリー「オーパ!」を読んでは来ていたのですが、本格的な文学作品に触れるのはこれが初めてです。
 想像以上に暗く繊細な文体だったので驚いてしまいました。(失礼ながら)見た目とのギャップがあって。
 それから内容が、ありていに言えば「ヒモ」のお話というのも、ちょっと抵抗を感じてしまいました。
 しかし、文章は実に美文名文で、線を引いておきたいセンテンスがいたるところに散りばめられています。とはいえちょっと前に読んだ、志賀直哉や川端康成の簡素な表現とは違う、まさに重厚という感じでした。

伊豆の踊子

 荒木飛呂彦が表紙を描いたと最近話題になった、「伊豆の踊子」を読みました。わたしの読んだのはご覧のとおり図書館で借りたものですが。
 文庫本にして四十ページ足らずの短いお話で、するっと読めます。そしていい話です。たぶんわたし、電車の中で気持悪く含み笑いを浮かべていたと思います。もう「いや、いいですね〜!」の百連発です。
 夏休みになったら伊豆に遊びに行こうかと思いました。荒木飛呂彦に惹かれて手に取った人たちで混んでいたりして。

RE:志賀直哉

 ちょっと感想が淡白過ぎた気がするので、追加します。
 収められている作品の中では「母の死と新しい母」が一番気に入りました。迫真過ぎると思ったら、実際の体験だそうです。一部は脚色されているでしょうが。
 その迫真さは、「城の崎にて」のねずみが殺されるシーンや、「正義派」の事故の場面などでも強く感じました。これらも実際に見聞きした事柄でしょう。
 志賀直哉は寡作で短編ばかり、唯一の長編が「暗夜行路」だそうです。それで思ったのですが、彼は画家のなかにある、モチーフを実際に目の前にしないと描けないようなタイプに属する作家だったのではないでしょうか?
 それで主題は身辺に求めざる得ず、虚構を積み重ねて大伽藍を築くようなことは不得手としたのではないかと想像します。
 まったく比較の対象ではなく、誤解を招きそうなのですが、敢えてわたしの好きな遠藤周作を引き合いに出しますと、彼の作品の重厚なテーマや、複雑な筋書きは交響曲のような趣を具えています(特に「深い河」でそう感じました)
 それに比べると志賀直哉のこの短編集はピアノの小品集のようだと思いました。どちらもあまり深く悩まされることなく、手軽に美しい気分に浸ることができるという点が似てます。

志賀直哉

 今日は久しぶりに天気のよい週末なので、ジョギングにでも行こうかと考えていたのですが、昨日左膝を痛めてしまったため見送ることにしました。
 今週はずっと角川文庫から出ている志賀直哉の短編集を読んでいました。わたしには「神様」とまで称えられたその良さはいまいちピンと来ませんでしたが、風流な生き方はうらやましいと思いました。

八甲田山死の彷徨

 タイトルだけで手に取った本でした。しかしこれはすごい。面白かったです。
 実際に起こった軍の雪山遭難事故を題材にした小説です。大量の犠牲者を出した青森五連隊と、八甲田山を制した弘前三一連隊。明暗分かれた二つの部隊を対照的に描きながら、いかにして悲劇は起こったのかを活写してみせてくれます。
 それにしても青森五連隊に降りかかる死亡フラグのオンパレードには驚くを通しこして呆れました。彼らはなすすべもなく死の運命に飲み込まれていったのです。そんな道しか選ばせてくれない、冬の雪山という極限の環境に心底身震いしました。

沈黙

 遠藤周作の「沈黙」を読了しました。
 本作は、ポルトガル人司祭を主人公に、江戸時代のキリシタン弾圧を描いた作品です。
 言うまでもないことですが、遠藤周作はカトリック教徒で、キリスト教をテーマにした作品を沢山書いています。
 これまで「海と毒薬」、「白い人・黄色い人」、「深い河」、「わたしが・棄てた・女」といった有名どころは押さえて来ました。
 これらのなかに神を信じて救われたというような話は皆無で、神父なのに下女と寝たり、信者なのに友人の恋人を寝取ったり、信仰を貫いてもロクでもない死に方をしたりという酷い話ばかりです。
 わたしが思うに、遠藤周作の文学とは、良心と現実とのせめぎ合いと葛藤なのだと思います。
 そして「沈黙」です。本作はその板ばさみを極限まで押し進めたもので、全編に緊張感がみなぎっています。
 特にフェレイラ師との再会から、穴吊り刑、そして踏み絵と対峙するクライマックスの盛り上がりは凄まじく、鳥肌が立ちました。まごうことなく、最高傑作です。

妖怪の民俗学

 宮田登の「妖怪の民俗学」を読了しました。この人の著書を読むのは、「民俗学への招待」(ちくま新書)に続いて二冊目です。
 タイトルから鬼や天狗などの妖怪の伝承を取り上げて解説するものと予測したのですが、妖怪が生み出されるプロセスの分析に重きを置いた内容でした。
 近年の怪奇現象についても多くの事例が書かれていて、現代の社会もまだ活発に妖怪を生み出し続けていることを教えてくれます。
 本書によれば、妖怪の発生に関わるキーワードは「境界」と「女性」なんだそうです。
 
 次は、遠藤周作の「沈黙」を読みます。