東京都写真美術館で展示中の須田一政『凪の片』ですが、11月2日、そのトークイベント第二弾に行ってきました。(前回の記事はコチラ)
前回は昼過ぎに行って整理券10番台が余裕で取れたので、今回も同じくらいの時間で行ったところ、なんと50番台!
ヤバイ、油断してたら入れなかったかも。
この人気の違いは、ゲストの違いかもしれません。
今回のゲストは写真家の鈴木理策さん。
不勉強なもので存じなかったのですが、木村伊兵衛賞を獲った高名な写真家だそう。
坊主頭にヒゲで、ガッチリ系という何かを感じさせずにはいられないルックスです。
お二人の関係は同じ東京綜合写真専門学校出身ということ。
同校で鈴木さんが卒業後、助手として働いていたところ、須田先生の受け持っている授業を手伝うことになり親交が深まったそうです。
さてトークイベントが始まる前に、会場入口そばの本屋で物色していたところ、ななななんと、須田先生降臨!
ジャンパーのような黒ずくめの服に身を包んだ先生は、想像以上に小柄な方でした。
ご自身の作品の並べられたコーナーで写真集を手に取ってご覧になっていました。
そう言えば、「わが東京100」が復刻され、平積みになっていたのですが、そのお値段¥8,400!!!
「高すぎやしませんか?!」
と、とうぜん言えるはずもなく、遠巻きに眺めるしかなかったのでした。
整理券は後のほうだったので、会場に入った時には既にだいぶ席が埋まっていましたが、幸いにも前列の席が開いていました。
で、定刻になって須田先生、ゲストが入ってこられると、先生はほぼ目の前のテーブルに座られました。
ラッキー!
鈴木さんはスクリーンを挟んでちょっと離れたテーブルに座られました。
東京都写真美術館の学芸員の丹羽さん(女性)が司会で、先生と鈴木さんの対談が進んでいきました。
前回のトークイベントで、須田先生あまり話しておらず「寡黙な方なのかな」と思ってたのですが、今回はけっこう話され、しかもたくさん笑いをとっていました。
どうも前回はゲストの鈴木一誌さん(この人も「鈴木」だわ…)が喋りまくってたので聞き手に回ってしまったようです。
対談は1時間半で、色々な話題を、しかも長く話されたので、お話自体は大変興味深く面白かったのですが、メモしていなかったので大分忘れてしまいました。
覚えている印象深いエピソードを思いつくまま書き出してみます。
恐山
『凪の片』でも最初期のシリーズとして恐山の写真が展示されていますが、その当時は恐山を撮るのが流行ったそうです。
内藤正敏なんかも撮っていますね。
で、須田先生は東松照明の撮ったものが最もその場所の雰囲気が出ていて良いと考えているそうです。
でも東松照明の様に撮ろうと思っても、それは東松氏の空間感覚のなせる技なので、ダメだったとか。
須田先生と鈴木理策さんは一緒に恐山に行ったことがあるそうです。
(それが「Piles of time」という写真集にまとめられて鈴木さんは木村伊兵衛賞を獲った)
途中の道中で色々と写真論を交わしたそうですが、先生はすっかり忘れたとか。
鈴木さんは、須田先生の写真を撮る早さに舌を巻いたそうです。
逆に先生は、鈴木さんの手水舎の柄杓から滴っている水滴に何度もシャッターを切る姿に、作家独特の視点を見て感心したとか。
変わりたい?
須田先生は、かなり初期から「須田調」と言われる黒っぽい画面を完成していたのですが、お世話になった写真評論家の方に「黒焼きに頼りすぎてる」と言われ、画風を変えようと苦心した時期があったそうです。
先生はカメラへの執着はほとんどなく、個展が終わると機材を売却してしまうそうです。
そんな風にカメラを次々と代えて新たな方向性を模索したそうですが、結局何も変わらなかったと仰っていました。
先の東松照明の話とあわせて考えると、写真家というのは持って生まれた固有の空間感覚、色彩感覚、トーンの感覚を表現するものなのかなと思います。
写真と妄想
以前はそうでもなかったそうですが、この頃「妄想」に突き動かされて写真を撮ることが多いそうです。
「妄想」というのは、まあイマジネーションのことなのでしょうが、先生が「妄想」と仰っているので「妄想」とします。
よく写真を撮るルートの途中に廃屋があるそうです。
どこにでもありそうな廃屋なのですが、非常に妄想を掻き立てられるそうです。
廃屋の軒先にひょうたんがいくつかぶら下がっていて、そのひょうたんに水が溜まっていて、そのせいで不規則に揺れるのだとか。
夜にその場所を訪れると、近くの自販機の灯りがフットライト気味にそのひょうたんにに当って、この世のものとは思えない不気味さを醸し出しているのだそうです。
そんな風に、一見つまらない風景からいろいろと観想して撮ることが多いとか。
ショートスリーパー
先生はまともに布団で寝ることは無いそうです。
いつもカウチなんかで3時間くらいしか寝ないとか。
夜中にフト目覚めて、車に乗って写真を撮りに出掛ける事も多いそうです。
ホーム
生まれも育ちも下町、神田の須田先生。
写真学校の授業や、以前やっていた「須田塾」なんかでは神田から出発してその周辺でスナップ写真を撮ることが多かったとか。
地域の旨い料理屋や居酒屋などにも精通しているそうで、時間が終わりに近づくと一杯やりたくてウズウズしてくるそうです。
「旨いものを食べたり、旨い酒を飲むのを第一にしてきた」と仰っていました。
その態度、見習いたいです。
しかし新宿、渋谷なんかはアウェー。
どうにも落ち着かず「早くお家に帰りたい」と思うそうです。
写真を見られる興奮
今回の写真展のタイトルでもあり、最新シリーズでもある「凪の片」は学芸員の丹羽さんがセレクトしたそうです。
しかも、須田先生の目の前で選ぶことになり、たいへん緊張したとか。
で、先生の方は作品を選ばれることに高揚感を覚えたそうです。
そう言えば前回の対談でも、他人の目を通して自分の作品がどう見られるのかということに興味を覚えると仰っていました。
「変態」と言われて興奮
鈴木理策さんからのタレコミ。
街中で撮影していると上記のような心ない言葉を浴びせられることがあるそうな。
許可も取らず、盗み撮りのような真似をしている方が悪いという意見もありますが、そこはひとまず置いておいて。
で、そう言われたその晩、先生は興奮して眠れなかったそうです。
何故…?
マネキンを撮って興奮
前回もちょっと話してらっしゃいましたが、先生のマイブームはマネキンを撮ることだそう。
早朝四時に、千葉から銀座まで出てきて、ショーウィンドウのマネキンを撮るそうです。
朝、掃除などをしている人たちの間では「また変なオヤジが来た!」と囁かれているとか…。
近頃では慣れたもので、15分くらいで撮影ルートを回れるようになったと仰っていました。
何故マネキンなのかというと、先生はもともと人体の一部分にフェチズムを覚えるタチだったそうです。
それで、最近のマネキンは筋肉の付け方など、かなりリアルになってきていて、生身の人間以上にすら感じられるそうです。
更にマネキンの足首には固定するために留め金がついているそうですが、それが「美しき囚われ人」というSM的な妄想を掻き立てられるそうです。
そう言えば先生の近著に「RUBBER」というSM的な作品があり、ちょっと自分には意外に思われたのですが、SM嗜好は先生の中では以前から持っていたもののようですね。
ひょうたんとマネキンの写真、是非とも見てみたいです。
さらなるご活躍を期待しています。