コンプリート・ベルリン1973&ガウト

今日はものすごく久しぶりに西新宿のブート街をさまよいました。
以前来たのは2004年か、遅くとも05年じゃないかと思います。
つまり8、9年振り…。
うーん、歳をとるはずですね。

なので、見つけるのに少し手間取りましたが、見つけました。
当時良く行っていたコレクターズCDショップ「ブラインドフェイス」です。

あらら、上の看板が壊れてる。
時の流れを感じさせずにはおりません。
しかし店内の雰囲気は昔とあまり変わりなかったですね。
それで、当時のドキドキ感を少し思い出しました。
とは言え、そんなオドロオドロしいということはなく、普通のCDショップとさほど変わりません。
売っているものが特殊なだけです。

今日ここに来たのはマイルス・デイヴィスのブートレグCDを探しにです。
私のマイルス遍歴を掻い摘んで話しますと、大学時代にのめり込み、好きな時代(70’s)のオフィシャル盤はあらかた聴き尽くしてしまいました。
そこで当時出たてだった「マイルスを聴け!(Vol.6)」を片手に、海賊版CDを求めてここ西新宿や、渋谷「マザース」などをさまよい歩くようになりました。

当時、社会人になりたてで、ある程度自由になる金を手にしたことが拍車を掛けたのかも知れません。
それに当時は70年代を中心に目覚ましい作品の発掘があり、別冊宝島から「マイルス海賊盤ベスト50」などというムックも発売されるくらいの盛り上がりがありました。
(この本いまでも買っておけば良かったと後悔しています。立ち読みで済ませてしまいました)

しかし、ブートレグでも主要な作品を抑えてしまうと「これ以上」というステージはなく、そこからはマイルス、ひいては音楽自体に対する興味も退いていったような気がします。
その後の数年間は、音楽をほとんど聴かず、たまに聴いてもアダルトコンテンポラリーミュージックや、スムースジャズ等の「毒にも薬にもならない」ものにしか接していませんでした。
それで引っ越す度にCDは減っていきましたが、マイルスだけは手放しませんでした。
とは言え、部屋の片隅に置かれたオブジェと化していました。

ところが今年の始めに体調を崩して寝込んでいた時に、退屈しのぎに再び聴き始めたところ、その素晴らしさを再発見し、病気が再発したというところです。
この間、清水の舞台から飛び降りる覚悟でMS-PROを買ったのも「マイルスの音楽をよりいい音で聴きたい」というのがその動機のひとつです。

さてこれだけ時間が経って、当然どうなっているのか気になる昨今のブート事情ですが、想像していたほどの画期的な新音源の発掘は無いようでした。
(残念なような、財布が痛まなくて済むのでほっとしたような)
しかし目を引いたのは既発CDの改善盤のリリース。
つまり、別のもっと音の良いテープを発掘してソースとしたり、デジタルマスターを施して雑音を除去して出し直したりしたものです。
あるいは、中身は全く一緒だけれども、先行がCD-Rなのに対してプレスCDで出したりします。
(なのでブート市場には同じ日、同じ演奏の複数のCDが溢れることになります)
かつて「決定版」と見なされていた作品も、すでにかなりの数がこれらの改善版にその座を追われているようなのです。

特に唸ってしまったのが、1973年のベルリン公演。
これは当時(04年)でも名演が発掘されたと大評判でしたが、残念ながら出回っている音源はモノラルで、かなりモコモコしたもの。
それでもスゴイと思って聴いていたものです
(↓がそのモコモコのCD)

それがななななんと、この間にステレオ化かつ、大幅音質アップを果たしたと言うではありませんか。
これだけは確かめねばと、長いブランクを挟んで、再びブート屋に足を踏み入れた訳です。

そしてこれが、手に入れたブツ!
『コンプリート・ベルリン1973&ガウト』

5,700円!!!
高い! 今どきCDにそんなに金出す人いますか?
コレクターさまさまではないですか。
あ〜、明日からはしばらくお好み焼きを食べる日々が続きます。

とはいえ音は素晴らしい。
究極の演奏をクリアな音質で聴ける悦び…。
無理だと分かっていても先にコッチを聴きたかった。

しかし人の欲望とは限りが無いもので、決定版とも言えるこのCDにも不満が無いわけではありません。
完全にチャンネルセパレーションしたステレオサウンドを謳っており、確かにそうなのですが、逆にチャンネルセパレーションしすぎて左右から聞こえる音が違いすぎ、真ん中の音がスカスカしているように感じます。
バージョンアップ前盤がモノラルで、音像が真ん中に固まっていただけに、かえってその印象が強まります。
特に2トラック目(Turnaroundphrase)の5分過ぎ辺りの、火事場のようなドラム・ソロがほとんど左チャネルからしか聞こえないのは興奮に水を差されるような気さえします。
これがマスターテープからしてそうならば、全くの無い物ねだりですが、何となくデジタルマスターの時点でステレオ感を増幅させる処理を行なっているような気がします。
それが裏目に出ているような気がしてなりません。

新たな「決定版」が出たら。それもまた買ってしまうのかなぁ…。

<ブートについての雑感>

  • 最初のブートレグ
    一番初めに手に入れたマイルスのブートレグは下の「アナザー・ユニティー」でした。

    これは演奏自体の素晴らしさ、音の良さに加えて、プレスCDであること、さらには読み取り面がゴールドという謎の力の入れ方でわたしの心に消えない印象を刻みつけました。
    あとどういう訳か、CDからいい匂いがしてました。
  • 新旧レーベル対決
    「アナザー・ユニティー」は「レジェンダリーコレクションシリーズ」というレーベルの作品で、当時ブラインドフェイスにはこのレーベルの作品が数多く並んでいました。
    なので、今回も「レジェンダリーコレクションシリーズ」の中の「ベルリン1973」が置いてあるものと期待していたのですが、「レジェンダリーコレクションシリーズ」は既に棚から取り除かれていて、代わりに「ハンニバル」という新興レーベルの作品がその場所を占めていました。
    「ハンニバル」のラインナップは他レーベルの既発CDの改善盤がほとんどを占めています。
    つまり他のブート屋さんが作って、売れ筋になった商品を、さらに良い音質で出して売上を奪い取る作戦です。
    今回買った「コンプリート・ベルリン1973&ガウト」もそのハンニバルレーベルのものです。
    買う側にとっては、よりいい音、しかもオフィシャル同様のプレスCDで手に入ることが多いので良いのですが、過当競争に陥って業界の体力を奪うことになるのではないかと、しなくても良い心配をしてしまいます
  • CD-R
    下は、わたしが昔、渋谷の「マザース」で買ったブートレグです。

    なんと、CD-R!
    一体原価はいくらなんでしょうか?
    まるでお金を刷っているようなもの。ブート屋さんは笑いが止まらなかったに違いありません。今はどうか分かりませんが、昔はインターネットで拾った未発表音源をCD-Rに焼き、自分でジャケットを手作りしてヤフーオークションで売ってる人を見かけました。
    やってることは別として、それはそれでクラフツマンシップが微笑ましいと言えないこともないです。
    しかし中には買ってきたブートを、ジャケット、レーベル含めて完全にコピーして売り捌いている輩も見かけました。
    マザースさんは変に欲がないのか、ネット通販をしていなかったため、格好の餌食になってしまっていたようですね。
  • 西の横綱
    マイルスのブートの東(東京)の横綱がマザースなら、西の横綱は名古屋の「サイバーシーカーズ」です。
    「レジェンダリーコレクションシリーズ」もここが出しているもの。
    名古屋には1年2ヶ月ほど転勤で居ましたが、ちょうどマイルスから離れていた時期なので足を運ぶことはありませんでした。
    今調べてみたら、千種なんですね。
    会社のオフィスがここにあったのに!
    もったいない事をしました。何も買わなくても、一目見てくれば良かったです。
  • 「コンプリート・ベルリン1973&ガウト」に対しての最後の小言
    このアルバムはベルリン公演を記録したCD1と、アート・ジャクソンというよくわからないギタリストの「ガウト」という未発表音源がCD2に抱き合わせになっています。
    この関連性は、同時期であることと、アート・ジャクソンをマイルスがサポートしてたらしいということだけ。
    別にマイルスが「ガウト」のレコーディングに参加している訳でもないですし、この薄い関係性でカップリングしたのは強引すぎる気がします。
    ベルリンの人気にあやかって謎のアルバムを売り付けようという意図が透けて見えます。
    音楽的に似ているのかと期待して聴いてみましたが、私的にはもう二度とトレイに載せる気になれそうにない代物でした。
    しかし、中山氏が電子版で紹介しているので、紙のほうの「マイルスを聴け!」でも新しい版からこちらが載るんでしょうかね?