「多摩景」は十五年に渡って多摩周辺(多摩・府中・国立・立川・国分寺・東大和市)を撮ったものです。
先の「偽景」とは対照的に郊外のありふれた風景を収めた作品です。特に公園を撮ったものが多いです。
概して人物は点景として配されています。
フィルムのフォーマットはブローニー6x7だそうで、たいへん緻密で美しいです。
しかしながら正直な感想としては退屈なフレーミングが多い。画面上下の余白が「もったいない」と感じさせる絵もあります。
とは言え、この写真集の魅力は被写体自身です。
多摩に住んだことのある人なら、いずれかの写真に目が留め「あっ、この景色みたことある」と呟いてしまうに違いありません。
特別なランドマークな訳でもなく、むしろごくありふれた風景に過ぎないのですが、にもかかわらず全編濃厚な多摩の気配に満ちています。
作家は特別な嗅覚でもって「多摩らしさ」の本質を捉えています。それは個人的な体験と共鳴し郊外を追体験させてくれます。
まるで子供時代のアルバムが数十年の時の流れを遡らせるように。
まさに多摩の記念写真です。