クリスマスの夜

 「ピンポーン!」
 就寝中に呼び鈴がなりました。
 ふだん訪ねてくるような人もなく、ましてや夜中ですから、夢だろうと考えて寝続けることにしました。
 
 「ピンポーン!」
 再び鳴りました。夢ではありませんでした。しかしそれ以上に眠かったので、知らんぷりをして横になっていました。
 
 「ピンポン!ピンポン!ピンポン!」
 今度は何回も連続で鳴らしてきました。わたしは心中穏やかではなくなって、ようやく体を起こして玄関へと向かいました。
 (大家かな…?)
 
 防犯レンズを覗くと、その人物はレンズの視界を避けるように立っていて、姿を確認することはできませんでした。
 
 「どなたですか?」
 不満をたっぷりの調子で、ドア越しに尋ねました。
 「○○ですけど、××さんのお宅ですか?」
 意外なことに若い女性の声でした。
 (わたしは表札を出していないのです)
 しかし、○○も××も知らない名前だったので「違います!」とぶっきらぼうに言い放ちました。
 「それでは隣が××さんですか?」
 彼女はなおも未練がましい調子で訊いてきましたが、「知らない」と答えると、立ち去る足音が聞こえてきました。
 
 わたしは寝床に戻りました。しかしその前に時間を確認すると、時計の針は深夜二時を指していました。
 
 声は可愛らしいけれど、心には狐か狸が巣くっている違いありません。