今年は松本清張生誕百周年にあたるそうですね。
わたしの田舎は記念館もある清張ゆかりの地、北九州なのですが、今まで「砂の器」しか読んだことがありませんでした。
いい機会なので有名どころを手に取ってみました。
この作品も、「砂の器」も四十年以上も昔の作品なのですが、まったく古くないのに驚かされます。
舞台自体はもちろん昭和なのですが、文章が実になめらかなので、違和感や陳腐な感じを与えないのです。
テーマは民間伝承というとても地味なものなのですが、にもかかわらずテンポよく展開していって飽きさせません。
しかし、島田先生の言っていた「(社会派は)フェアさを欠く」というのも分かる気がしました。
あまりにも沢山の情報が、関係あるのかどうなのか分からない状態で提示されるので、読んでいて「いっちょ犯人を当ててやろう」という気にはならないのです。
とくに「Dの複合」の意味が提示されるところなど、強引さすら感じてしまいました。
この文章のまえでは、読者は探偵よりもむしろいち観客になってしまうのではないでしょうか?