映画「メッセージ」を観て

(すいません。容赦なくネタバレしてます)

最近アマプラで観ました。

2017年公開。
「ばかうけ」みたいな形のUFOに乗って地球にやってきた宇宙人とコミュニケーションしようと四苦八苦する映画です。
UFOを扱った映画は数多くありますが、侵略者だったり「ET」みたいに簡単に意思疎通できてしまうものが大抵だと思いますが(じゃなきゃお話が進まないので……)、現実に地球外生命体と接触したなら、まずはどうやってコミュニケーションをとるのかが大問題となる筈です。

そこに真正面にフォーカスした作品で、知的好奇心を掻き立てられる良質のSF作品です。
17年の公開当時から気になっていて、いつか配信されるんじゃないかと期待していたのですが、やっっと観ることが出来ました!
そして期待通り、いやそれ以上の素晴らしい映画だった!!
そうですね…、私がHULU、アマプラで観てきた映画の中で5本の指に入ると思います。残り4本のうち2本は「300」と「アポカリプト」ですが―――。

そんな斬新な切り口の宇宙人はちょっとステレオタイプな2体のタコ型宇宙人。(アボットとコステロ)
七本足なので、「ヘプタポッド」と呼ばれてます。
宇宙船内に招き入れられた主人公たちは、まずは言葉でやり取りできないか呼びかけてみますがダメ。
ホワイトボードに文字を書いて見せたところ、向こうも墨を吐いて円形に文字らしきものを描き出してみせます。(ほんとタコみたい…)
そのことが端緒となって宇宙人の言語さらには思考様式が次第に明らかになっていくという筋です。

宇宙人の文字は莫山先生がよかいちのCMで書いてた「まる」そのもの……。(古いッ!!)
「絵でしょ?」としか思えませんが、微妙な刷毛捌き(?)が細かな意味を表しており、一筆で複雑な文章を表現しているといいます。
たぶん初めて漢字を見た外国人も同じように感じるんでしょうね…。

その文字から分かったのは、宇宙人の文字は表意文字で、普通の地球上の言語のようにS・V・O的な順次的な語順は持たないこと。
というより宇宙人の思考自体が地球人のように時系列に沿ったものではないことが分かってきます。
つまり原因⇒結果という「アタリマエ」と思われる論理は彼らには無く、原因と結果の関係があらかじめあり、それを時間順に観測するのも逆に観測するのも等価と考えているらしい。(何のこっちゃでしょう?)
(原作小説では因果論的(人類)⇔目的論的(ヘプタポッド)と比されているよう)

しかしながらこのアイディアには、個人的な体験から思わずはっとさせられるものがありました。
ウチの寝室の照明はリモコンで調光できるのですが、ボタンを押すことで明るさがサイクリックに変化します。(点灯⇒常夜灯⇒消灯⇒点灯⇒…)
このごろ子供が起きると自分で部屋の照明のリモコンを操作するようになったのですが、明かりが点いたにもかかわらずボタンを押し続けて再び消してしまうことがよくあります。
「なんで~?」と思っていたのですが、サイクリックな調光というのは良く考えると強度に逐次的な動作と言え、子供はむしろ生得的には目的論的な発想をするのではないかと思います。
つまり「部屋の明かりが点く」と「リモコンのボタンを押す」ということの関係だけが存在し、その順序は問題としていないようなのです。
そこから因果論的発想は実は後天的なもので、成長するにつれ獲得し、常識として理解を深めていくはないかと感じていました。

とは言えヘプタポッドは超光速で宇宙を航行するUFOを作るほどの高度な科学力を持っており、子供の知能にとどまっているわけではありません。
その秘密はまさに目的論的、というか、映画では「非線形的」という言葉で形容されているところの宇宙人の思考様式にあると思います。
この「非線形」というワードは文系の人には馴染みが無いと思いますが、私のような小学校時代に「ニュートン」やら「ブルーバックス」を読んで他の子たちより頭が良くなったような錯覚を楽しんでいた嫌なガキには憧憬すら覚える言葉です。

線形というのはここで言うと因果論的ということで、原因に対して結果がはっきりとしているようなケースです。
逆に非線形というとあらかじめ原因と結果がある関係を持つように定められており、その関係を優先するために原因が制限を受けるような、まことに不思議なシチュエーションを示しています。

普通(というと語弊があるけど…)の物理法則は線形の方程式で、だからこそ普段生活しているうえで原因⇒結果という単純な経験則が成り立つのですが、世にも名高い相対性理論は非線形の方程式なんですな。
(光の速度に近づくと時間の進みが遅くなったり、空間が歪んだりするのはその副産物)

で、真の物理法則を名乗るためにはどんな物理の方程式も相対性理論の要請を満たす形にしなければならないとされていて、線形の方程式で記述されるような物理の理論はあくまで真の理論の簡易版に過ぎないと考えられています。
ただこの非線形性の要請はかなり厳しいらしく、超ひも理論とか色々提言されているようですが、21世紀に入ってもまだ決着していないと聞いています。

これはまったく当てずっぽうの放言なのですが――、本質的に目的論的な物理法則を因果論的な形で理解しようとしているために生まれた、もしかしたら不要な苦しみなんじゃないかと思います。
例えば円の方程式を直交座標を使用してy=○○式に記述すると、結構不自然な形になりますが、極座標を使用するとごくシンプルに書けます。
思考の座標変換と言いますか、つまりヘプタポッドよろしく目的論を思考の中心に据えた場合、そもそも線形という概念が無いので「非」線形などという発想は生まれるはずもなく、真の物理法則を我々がニュートンの法則をごく当たり前と感じるように、ごく当たり前に受け入れられるのではないかと思います。

ただ良いことばかりではなく、ヘプタポッドは「いつ地球に到着する」などと言った計画は全く立てられなかったはずです。
また彼らは宿命的に運命論者となるので、滅ぶべき運命にあるとしたら何もせずに滅んでいたはずだし、地球人と交わる運命になければ旅に出なかったでしょう。
ヘプタポッドと地球人はあらかじめ出会うことが定められていたからこそ彼らはやってきたのです。
なので「3000年後に地球人に救ってもらうために来た」という映画のセリフは明らかにおかしいです。
それもそのはずで、やっぱり原作にはそのような説明は存在しないんだそうです。