とにかく何でも良いから食べるものをと、川原湯温泉の看板の方に流れていくと、入口のほど近くにお土産屋があり、その軒先で少し休ませて貰いながら、店番をしているおばあさんに話を聞いたところ、この付近にはまともな食べ物屋はなく、ハイキング客はまんじゅうを食べて飢えを凌ぐのだそうです。
それとなく友人にまんじゅう案を提案してみたところ、ここまで来てまんじゅうで我慢できるかと逆上気味だったので、白糸の滝に電話をかけて道順を訊くことにしました。しかし訊いてみてもどうも要領を得ない。「発電所」「トンネル」「雁ヶ沢」などのランドマークを教えてもらいましたが、どこかまるで別の場所のことを話しているような雰囲気です。しかし渋川方面であることは間違いなく、期待を抱きながらふたたび国道沿いを歩きはじめました。
街道からは右手に渓谷が見下ろせます。険しい谷間をエメラルドグリーンの水が乳のように泡立ちながら流れていく様は遙かなる眺めでした。ちょっと残念だったのは八ッ場ダム建設のための資材置き場やバリケードが一部風景を遮るように建てられていたことです。この辺りで思い当たっていれば良かったのですが、白糸の滝はダム完成時には水底に沈んでしまうこの付近を避けて、高台へと移動していたのです。しかしあくまでガイドが間違っているのだろうと思い込んでいたところに不幸がありました。
とちゅう小蓬莱の見晴台を経て鹿飛橋に到着。ここまでで駅から二キロほどの道のり、四〇分ほどかかっています。しかし何ともショッキングな事実が判明。そば屋があるという雁ヶ沢まではまだ半分の距離だと言うのです。
歩きづめで疲労困憊していたわたし達はついに折れました。最後に鹿飛橋からの眺めを視界に収めて、この何年か後にはダムの底に沈んでしまうという素晴らしい風景を後にしたのでした。