大釜弁財天の傍のチェックポイントに戻った頃には、およそ一時間ロスしていました。あまり遅くなると七沢で温泉に入ってから本厚木まで帰る道が不安になります。心中穏やかでなく日向山の斜面に挑みますが、これがキツかった。急な斜面を山道は蛇のようにクネクネと折れながら尾根まで続いてゆきます。尾根に出たところで第二のチェックポイントに行き当たりました。ここで道は日向山山頂を目指すルートと七沢温泉郷へのショートカットとに分かれます。道草を食ったため時間が押していたので、ショートカットに心が傾きましたが、せっかくここまで来て登頂しないのもやはり勿体無く思えたので、当初の予定通り山頂を目指しました。
この辺で今日初めての登山者と遭遇しました。尾根伝いを歩いていたようです。リュックを背負い、上半身はランニング姿になっていました。たしかに今日は快晴、絶好の登山日和で無理からぬ事であると、軽く会釈を交わしつつ考えました。
山頂に至る道は狭く、木の根がはびこる険しい道でした。単調な道をしばらく登ると、ふっと開けた場所に出て、そこが頂でした。標高404メートルではやはりそれほどの充実感はなかったです。
山頂からは行きにバスで通りかかった、リハビリセンターのビルが見下ろせました。その向こうの厚木の街は霞にけぶっておぼろにしか見えませんでした。つつましやかな祠があり、その両側に脇仏の如く日向山山頂の標識と、ちょっと新し目な「ナイスの森」の説明文が立っていました。
説明によると、日向山の斜面の一部を「ナイス株式会社」という福々しい名前の会社が買い取り、自然保護に務めているのだそうです。そのお陰でわたしの持参した地図にある、山頂から日向薬師に向かうルートは私有地となりロープが巡らされて通れないようになっていました。微かにいら立ちを覚えたものの、仕方が無いので迂回路を行きました。
下りの道は打って変わって歩きやすくなります。周囲の森には椿の花が咲き乱れて綺麗でした。薬師のほど近くまで来たところで梅園に足を踏み入れました。本堂裏の「日向梅園」でした。時期はまさに見頃と言ったところで、百本もの梅の花が咲き競う眺めは桃源郷という形容がぴったりです。ピクニックをする人の姿も見られました。