翌朝七時に目が覚めました。窓から明るい陽射しが差し込み、カーテンを開くと眼前に美しく白化粧をした富士が見えます。右手には箱根の山の峰々が青空の底にぼんやりと広がっていました。素晴らしい一日を予感させるような朝でした。
マックスバリューで買ったサンドウィッチを胃につめ込み、八時半にはもうチェックアウトしていました。清冽な空気を胸いっぱいに吸い込むと、街は昨日とはまるで違って見えます。狩野川の土手に立ち、金色に輝くすすきの茂みと、快晴の空を映した青い流れを眺めました。わたしはもと来た青い鉄橋を渡り、温泉街を後にしました。
修善寺には伊豆長岡から鉄道で二〇分弱ほどです。駅についてすぐ、天城峠経由、河津行きの東海バスに乗り込みます。目的地は伊豆の踊り子にも出てくる(そうですが、全然覚えてません)旧天城トンネルです。
バスは駅を出るとすぐに赤い鉄橋の湯川橋を渡り、下田街道に入ります。修善寺温泉入口を通って、田舎道を進みます。しばらく行って月ヶ瀬のあたりから険しい山中に差し掛かり、同時に積雪が眼に入るようになります。それから湯ケ島、浄蓮の滝駅を経て天城峠に到着しました。修善寺駅から四十五分ほどの所要時間でした。料金は千五十円になりました。
ここまでくるともう一面の銀世界で、地上との隔たりを覚えます。バスを降りて目前に見えるのは「新」天城トンネル。旧天城トンネルは、ここからしばらく歩かなくてはいけません。もと来た道を少し戻るのです。すぐにひとつ前の「水生地下」で降りたほうが近かったことに気付かせられました。そう言えば山歩きの格好をした人たちが何人か降りていたのでした。一緒に降りていればよかった。
とは言え、旧天城トンネルまでの山道の入口はすぐに見つかりました。道は、おそらく昨日降り積もったのであろう、ふわふわとした新雪に覆われていて、それが陽光に眩しく輝き本当に美しかったです。来て良かったと心から思いました。時おり梢から前置きなしにドサっと降りかかってくるのには閉口させられましたが、風に舞い散る姿もまた美しかった。雪はくるぶし辺りまで積もっていたので、踏み固められた轍の上を歩きました。たまに氷面のようになっていて足を取られて転んでしまうこともありましたが、雪は柔らかいので痛くないのです。
三十分ほど歩くと、目的地の旧天城トンネルに到着しました。切石で組まれたアーチ状の小さいトンネルです。だいたい車一台が通れるくらいの横幅でしょうか。
中に入るとところどころにツララがぶら下がっているのが見えます。ガス灯を模した照明が備え付けてあるので、歩くには苦労しない程度の明るさがありました。四百mほど歩くと河津側の口に出られます。