RE:中伊豆旅行

 ホテルに戻った頃には丁度いい時間になっていました。フロント(というか、サイドテーブルに電話機が乗っているだけ)から呼びかけると、おばさんと小学校低学年くらいの男の子が階段から降りてきました。キーを受け取り階段を登ると、各階のフロアはあまりに静かでした。察するに家族だけで切り盛りしているようです。
 部屋はワンルームマンションのような作りで、案外と綺麗でした。トイレ、風呂は共同です。ベッドはマットレスが敷いてあるだけで、その上に掛け布団が畳まれていました。エアコンも付いていて、試しに入れてみると動きます。はて?それでは冷暖房別料金とはどういう事だろうと首を捻ってしまいましたが、面倒くさいことになるのは嫌なので止めました。最初から頼むつもりはなかったのです。
 テレビを観ながら少し休んだあと、ふたたび温泉に出掛けました。今度は「長岡南大衆浴場」という共同浴場です。先のあやめ湯の丁字路を左手に曲がり、一キロ弱ほど進むと長岡の交差点があります。そこを最明寺を右手にして折れるとすぐに順天堂大静岡病院が見えてきます。セブンイレブンとミナグチ書店のある角を入って少しのところに長岡南大衆浴場が見つかりました。
 銭湯丸だしという感じだったあやめ湯に比べてここはキレイでした。風呂は「熱い」と「超熱い」の二種類。来たときにはちょうど客は私ひとりだったので、ゆったりした気持ちで湯船に浸かれました。じゅうぶんに温まり、三十分程で出ました。
 向かいのセブンイレブンで湯上りのビールを購入します。店内でよく分からない言葉を話す人たちの集団と遭遇しました。たぶん中国人でしょう。
 ビールを飲みながら最後の共同浴場、「湯らっくすのゆ」を探して歩きます。道沿いには南山荘、いづみ荘、三渓園等の大旅館が並び、あぁこれこそ温泉街だなあという感じがしみじみとします。それらの表に掲げている値段を見てみると、一泊四千円台からと意外とリーズナブルであることが判りました。
 なんとも嫌な思いが心中を駆けまわります。
 「失敗した」「変にケチってつまらない宿を取ってしまった」「本格的な温泉旅館にでも安く泊まれたんじゃないか」「たぶん内風呂だって共同浴場とは比べものにならない筈だ」「露天風呂だってあったろうに」
 湯らっくすのゆを探して国道414号沿いに歩いていたのですが、いつの間にか資材置き場のような変な場所に辿り着いてしまいました。明らかに道を間違えたのです。日もすでにとっくりと暮れ、熱も酔もすっかり冷めて、ものすごく心細くなってきました。けっきょく諦めてもと来た道を引き返すことにしました。それは失意に満ちた帰路でした。