RE:中伊豆旅行

 正午半ごろ、伊豆長岡に到着。さっそく困ったことにPASMOが使えないことが判明しました。乗り換えなしで接続してるのにそれはないんじゃないの?と心のなかでつぶやきつつも、三島からの運賃だけ払って駅を出ます。JRの分は翌日管区内で精算です。
 三〇〇mほど歩くと、狩野川にかかる青い鉄橋が見えてきます。橋を渡ると、「伊豆長岡温泉」の大看板が目に入ってきます。まずは本日の宿、「ホテルLOCANDAいづい」の場所をチェック。ここの魅力は何と言っても安さ。一泊三千円です。もちろん素泊まり。しかも冷暖房を使うと別途五百円取られるというコスト意識の高さです。
 県道131号線から一ブロック入った、マックスバリューとハックドラッグのある通りにホテルはありました。なんだか事務所のような建物です。この周囲も観光地というよりは住宅街といった雰囲気でした。ただ、マックスバリューを見たときには顔に思わず喜色を浮かべてしまったことを正直に告白します。「これで食事には困らない」そう思ったのです。
 チェックインは三時からなのでまだ間がありました。そこで伊豆長岡に三ヶ所ある共同温泉のうち、一番近くにある「あやめ湯」に入ることにしました。場所は県道131号が129号と合流する古奈の丁字路のそばです。
 三百円のチケットを券売機で買い、受付のお爺ちゃんに渡します。午後の営業開始直後でしたが、すでに先客がいました。浴槽は檜の縁取りの内湯がひとつ。浴室はタイル貼りで安銭湯の趣です。シャワーを浴びてから湯船へ。ちょっと熱めに湯に胸まで沈めると、冷えた体が温められ思わず「あぁ〜」とため息を吐きたくなります。泉質はアルカリ性単純泉。効能は神経痛、筋肉痛とあります。とくに匂いも色もなく、普通のお湯という感じです。
 しばらくするとぼつぼつと湯客が入ってきて混んできました。どの顔も五十年配以降のおっちゃん、おじいさんたちです。
 ただ単に湯に浸かるというのは退屈で、知らないものどうしが無言で同じ湯に入っているというのも息が詰まりそうです。なにか話しかけたほうが良いのかと悩みましたが止めました。そうして三十分ほど温まってから、あやめ湯を後にしました。
 湯上りの定番、牛乳を一杯やりたかったのですが、ここは商売気がないのかそういう物を置いてませんでした。それでマックスバリューまで戻り壜入りの「丹那特濃乳」を購入しました。何の気なしに飲んでみたのですが、これがすごく美味い! ものすごく濃厚でキャラメルのような甘い風味があるのです。
 
 困ったことにまだチェックインの時間までかなり時間が余っていました。仕方がないので小雨が降り続く温泉街をぶらぶらしました。天気のせいもあるでしょうが、街にはまったく生気がないように見えました。「寂れてる」と言うべきか。
 こういったところに付き物の、パブ、スナックの類もやってるのかどうか分からないような感じで、なんとなく薄汚れ、場末の雰囲気を醸し出していました。
 後でわかったのですが、伊豆長岡の温泉街は源氏山という小山を取り巻くように発展していて、大旅館の多くは向こう側にあるのです。知らずに「なんだかケチなところだなぁ」などとつぶやいていました。
 足が自然と狩野川の河川敷に向いていました。河は曇天を映して鉛のような暗い流れです。川岸を覆う枯れたススキの茂みは鈍い金色。人っ子ひとり見えません。
 下流に向かって進むと中洲がありそこで河は二又に分かれていきます。左手の流れは駿河湾にショートカットする放水路で、奥にはポッカリと大きなトンネルが三つ並んでいます。何ともいえない不思議な光景だったので、好奇心に駆られて水路の底まで降りていきました。川底はところどころに水溜りがあるものの、水流はありません。でも立っているところの遥か上に水量計の目盛りが引かれているのを見て身震いがしました。