RE:写真集

 「多摩景」は十五年に渡って多摩周辺(多摩・府中・国立・立川・国分寺・東大和市)を撮ったものです。
 先の「偽景」とは対照的に郊外のありふれた風景を収めた作品です。特に公園を撮ったものが多いです。
 概して人物は点景として配されています。
 
 フィルムのフォーマットはブローニー6x7だそうで、たいへん緻密で美しいです。
 しかしながら正直な感想としては退屈なフレーミングが多い。画面上下の余白が「もったいない」と感じさせる絵もあります。
 
 とは言え、この写真集の魅力は被写体自身です。
 多摩に住んだことのある人なら、いずれかの写真に目が留め「あっ、この景色みたことある」と呟いてしまうに違いありません。
 特別なランドマークな訳でもなく、むしろごくありふれた風景に過ぎないのですが、にもかかわらず全編濃厚な多摩の気配に満ちています。
 作家は特別な嗅覚でもって「多摩らしさ」の本質を捉えています。それは個人的な体験と共鳴し郊外を追体験させてくれます。
 まるで子供時代のアルバムが数十年の時の流れを遡らせるように。
 まさに多摩の記念写真です。

写真集

 最近購入した写真集を紹介します。「偽景 1998‐2006(菊池一郎)」と「多摩景(田中昭史)」です。
 
 いずれも店頭で見つけてパラパラ眺め、一旦は「フーン」、しばらく放っておいたのですが、後日ムラムラと欲しくなり手に入れたというパターンです。
 まずは「偽景」のほうから。これはなんともいいタイトルです。
 このタイトルと表紙から中身がなんとなく想像つき、かつその通りだというのがこの本の良いところです。
 有り体に言えば、作家が九年間に渡って日本各地で撮りためた「変な風景」をまとめたものです。
 とはいえ「VOW」であるとかトマソンのような「日本珍奇景」に堕していないところが素晴らしい。絵に緊張感があるのです。
 単純に変な風景を写しているだけのカットもままありますが、多くの写真で主題となっているのは自然と人工物との鋭い対立です。
 本作ではそれをよくある人間疎外と絡める立場ではなく、むしろ楽しみ、肯定的に取り扱っているのが分かります。
 それを端的に言い表したのがタイトルの「偽景」なのではないかと思います。