以前知人から映画の株主優待券を貰い、しばらく忘れていたのですが、その期限が今月末に迫っていました。
しかしこの映画館、一日に二タイトルくらいしかやらない(しかもマイナーな作品ばかり)ので、わざわざ街まで出る気にはなれないでいました。
そもそもわたしは映画というものをほとんど観ないのです。
しかしふと上映スケジュールを見てみると、興味を引くタイトルが。
「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」
なんだこりゃ……?
興味をそそられて、ようやく重い腰を上げ、何年ぶりかに映画館に足を運んだのでした。
映画はカナダの売れないロックバンド「アンヴィル」を二年くらい追ったドキュメンタリーでした。
売れないロックバンドなんてそれこそ砂の数ほどあるのですが、彼らがそんじょそこらの「売れなさ」とは訳が違うのは、一時はボンジョヴィ(超有名)、ホワイトスネイク(まあまあ有名)などと肩を並べる存在だったということです。
映画の冒頭で、八十四年に日本で行われた「スーパーロック84」で演奏する彼らの姿が映し出されます。これには当時のメタル少年は頭を掻いたのではないでしょうか。
ボンジョヴィが栄光の道を進むのとは対照的に、アンヴィルは坂道を転げ落ち、バンドだけでは食っていけずに、給食の配達人や、建築作業員に身を落とすことになります。
しかし彼らは、冴えない仕事に身をやつしながらも決して夢を諦めていなかった! 五十代になり、頭はハゲかかってもバンド活動を続けていたのです。バンドを結成してから三十年の月日が流れていました。
そんな彼らに対する家族の反応はさまざまです。主人公の一人、ロブの姉は「とっくに終わってる」
でも彼の妻は夢を諦められない夫を擁護します。
ところが降ってわいたようなヨーロッパツアーの話が舞い込んで、事態は急変します。一ヶ月以上に渡ってヨーロッパ全土を巡るツアーです。彼らは幸運の予感に胸を震わせ、それぞれ長期休暇を取って、意気揚々海を渡ったのでした。
しかし、そこで待っていたのは失望の連続でした。少ない客入り、払われないギャラ、マネージメントの悪さ。苦い気持ちでツアーを終えたのでした。
「だが、今年はなにかがいつもと違う」と、ツアーの勢いを駆って、彼らは新しいアルバムの製作に乗り出します。
しかしそれに必要な経費が二百万。
普通の感覚ではそれほど目を剥くほどの大金でもありませんが、ふだんからカッツカツでやってきて、家のローンも残っている彼らにはそれを捻出する余裕はありませんでした。
それを救ったのが、もう一人の主人公、リップスの姉です。彼女が涙ながらに弟の夢を応援する姿はこの作品のハイライトと言えると思います。
そんな家族愛に支えられて完成したアルバムが、アンヴィルとして通算十三枚目となる、「This is Thirteen(邦題 夢を諦めきれない男たち)」でした。
リップスとロブはこのアルバムをショップに並べるために渡米し、ほうぼうのレコード会社を回ります。
しかし完全なる門前払い。話だけは聴いてくれたEMIにも、「時代遅れすぎて売れない」とまで言われてしまいます。
「こんなにもいい音楽なのになぜなんだ?」と切れた彼らは、ついに自家プレスに及び、手売りを覚悟するのでした。
ところが海の向こうに救いの神が。
アルバムを聴き、興味を持った日本のプロモーターが「ラウドパーク」というロックイベントにアンヴィルを招待してくれたのです。
そして「This is Thirteen」は、日本ではソニーミュージックからメジャーリリースされることになりました。
アンヴィルはスーパーロック以来に日本の地を踏みました。
演奏順としてはキャリアにふさわしくない前座扱いでしたが、幕張メッセに詰めかけた二千人のファンの前で熱演を繰り広げたのでした。
それはあたかも八十四年の再現のよう。熱い余韻ののこるラストでした。
アンヴィルがこの映画によって、再びスターダムに舞い戻れるのか、それとも元の生活に帰っていくのか、わたしには分かりません。
でも夢を追い続けることの素晴らしさと厳しさを誰の心にも刻み付けたに違いありません。
わたしにとっては激励のような映画でした。思ってもみなかったようないい内容でした。
映画、たまには観てみるのも良いものですね。
画像は映画の内容とはまったく関係ない、映画館の近くの風景です。