本格ミステリーの巨匠、島田荘司の推理小説指南書です。
わたしは「占星術殺人事件」と「斜め屋敷の犯罪」、それから「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」くらいしか読んだことがないのですが、そのトリックの凄さには圧倒されていました。
ただ文章がちょっと好みではないので、あまり手を出していませんでした。
かなり厳めしい印象があったので、「北方謙三みたいな内容だったらどうしよう」と思っていたのですが、さにあらずで、「原稿を印刷するときには縦書きか?横書きか?」とか「『字下げ』って何ですか?」等の基本的な(だからこそあえて質問し辛い)疑問に多くの項を割いて、丁寧に回答していました。
ただ途中でしばしば、日本人論みたいな話に脱線してしまうのはどうかと思いましたが。
先生は綾辻行人、歌野晶午などの後にビッグネームになった新人を世に出したことでも知られています。
それだけに新しい才能への希求心がこの本の随所に現れていました。
「本格ミステリー」という言葉は、論理思考の別名であるところの「本格」と、超常現象を表す「ミステリー」を組み合わせたもので、いわば「バーモントカレー」くらいに矛盾を孕んだ造語だそうです。
実はいまだに、真にこの名に値する作品は少ないのだということを訴えていました。
乱歩に始まる日本のミステリーの歴史と、その特別な(不幸な)事情の話は興味深かったです。
ただ「隣百姓の論理」だとか、江戸時代からの「闇の文化」が影を落としているだとかいう議論はやや偏っているのではないかと感じました。