耳をすませば

 ジブリアニメの「耳をすませば」をDVDで観ました。
 このアニメ、聖蹟桜ヶ丘が舞台なんですよね。そのことは前々から知っていたのですが、いかにも青春全開そうな作品なので手を出せずにいました。
 しかし「鎌倉街道夢紀行」の関戸の回を観たせいで、どうしても辛抱たまらなくなり、手に取ってしまいました。
 
 オープニングからいきなり懐かしい風景。なつかしーな、京王SC。OPAは? 無いか……。
 わたしが聖蹟桜ヶ丘に足しげく通っていたのは二〇〇〇年ごろなので、作品とはちょっとずれているのです。
 しかし山! この山の形ッ! 多摩丸出しです。起伏に富んだ地形と、そこにへばりつく住宅地こそが多摩の魅力なんです。
 その魅力が最大限発揮されたのが、エンディングの鉄塔のシーンではないでしょうか?
 ここと杉村がフラれた金比羅神社はファンのあいだでは聖地として、いまでも訪れるひとが絶えないそうです。
 わたしも当時にこの作品を見ていたら、もしかしたら行っていたかも知れませんね。

Dの複合

 今年は松本清張生誕百周年にあたるそうですね。
 わたしの田舎は記念館もある清張ゆかりの地、北九州なのですが、今まで「砂の器」しか読んだことがありませんでした。
 いい機会なので有名どころを手に取ってみました。
 
 この作品も、「砂の器」も四十年以上も昔の作品なのですが、まったく古くないのに驚かされます。
 舞台自体はもちろん昭和なのですが、文章が実になめらかなので、違和感や陳腐な感じを与えないのです。
 テーマは民間伝承というとても地味なものなのですが、にもかかわらずテンポよく展開していって飽きさせません。
 
 しかし、島田先生の言っていた「(社会派は)フェアさを欠く」というのも分かる気がしました。
 あまりにも沢山の情報が、関係あるのかどうなのか分からない状態で提示されるので、読んでいて「いっちょ犯人を当ててやろう」という気にはならないのです。
 とくに「Dの複合」の意味が提示されるところなど、強引さすら感じてしまいました。
 この文章のまえでは、読者は探偵よりもむしろいち観客になってしまうのではないでしょうか?

島田荘司のミステリー教室

 本格ミステリーの巨匠、島田荘司の推理小説指南書です。
 わたしは「占星術殺人事件」と「斜め屋敷の犯罪」、それから「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」くらいしか読んだことがないのですが、そのトリックの凄さには圧倒されていました。
 ただ文章がちょっと好みではないので、あまり手を出していませんでした。
 
 かなり厳めしい印象があったので、「北方謙三みたいな内容だったらどうしよう」と思っていたのですが、さにあらずで、「原稿を印刷するときには縦書きか?横書きか?」とか「『字下げ』って何ですか?」等の基本的な(だからこそあえて質問し辛い)疑問に多くの項を割いて、丁寧に回答していました。
 ただ途中でしばしば、日本人論みたいな話に脱線してしまうのはどうかと思いましたが。
 
 先生は綾辻行人、歌野晶午などの後にビッグネームになった新人を世に出したことでも知られています。
 それだけに新しい才能への希求心がこの本の随所に現れていました。
 「本格ミステリー」という言葉は、論理思考の別名であるところの「本格」と、超常現象を表す「ミステリー」を組み合わせたもので、いわば「バーモントカレー」くらいに矛盾を孕んだ造語だそうです。
 実はいまだに、真にこの名に値する作品は少ないのだということを訴えていました。
 
 乱歩に始まる日本のミステリーの歴史と、その特別な(不幸な)事情の話は興味深かったです。
 ただ「隣百姓の論理」だとか、江戸時代からの「闇の文化」が影を落としているだとかいう議論はやや偏っているのではないかと感じました。

放送ライブラリー

 三連休は会社の先輩の結婚式に出席するため、横浜へ行ってきました。七月に引っ越して以来ですから、三ヶ月ぶりということになります。
 式は連休初日の土曜日で、その日は関内にある横浜スタジアムそばの東横インに泊まりました。
 この旅の真の目的が近くにあるからです。
 
 翌日は早起きしてロビーで朝食を採り、それから大桟橋の方へ散歩に出かけました。
 空は雲一つない快晴で、眩しいくらいの日差しが降り注いでいました。ほんの少し冷たい秋風がさわやかな気分にさせてくれました。
 十時にホテルをチェックアウトして、横浜情報文化センタービルに向かいます。ここはレンガ作りの重厚な旧横浜商工奨励館を底部に残し、地上十二階建のビルを載せたユニークな造りになっています。一階には上品ですがお値段も相応に高いレストランが入っています。
 今回用があったのはここの八階にある、放送ライブラリーでした。
 ここでは過去に放送されたテレビ番組や、ラジオをなんと無料で視聴することができるのです。お目当ては、テレビ埼玉で99年から01年にかけて放映された、「鎌倉街道夢紀行」です。
 時間はたっぷりあったのですが、五十二本もあったのでとてもすべては見切れず、東京と神奈川を歩いた回を重点的に観ました。
 府中や、川崎を歩いた回では見覚えのある風景にじわっと懐かしい気分になりました。
 圧巻は、鎌倉への最後の難所「大仏坂切通し」でしょうか。当時の雰囲気をそのまま現在に伝える勇壮な風景でした。
 
 通して観たことで意外な発見がありました。パーソナリティーの村松健さんの服装が毎回変わっているのです。12分番組なので、まとめて何本か撮っているいるのだろうと思っていたのですが、さにあらずでした。それだけ手が込んでいたに違いないと改めて感心いたしました。
 しかし、こんなことを言っては良くないですが、初期の健さんの服装はかなりダサイです。そしてあまりカメラに慣れていない印象。インタビューの時くらいはポケットから手を出してはどうでしょうか……。
 ただ、「中山道 風の旅」ではぐっと洗練されているので、その間にいろいろ考えるところがあったのでしょう。
 
 目的も果たせて、思い出深い旅になりました。

中山道 風の旅

 ガイドブック版「鎌倉街道夢紀行」を手に取ってから、にわかに旅への憧憬が盛り上がってきました。
 「鎌倉—」の続編である、「中山道 風の旅」のDVDが村松健の通販サイトで売られていたので、ついポチってしまいました。
 
 届いたのがこれ。89分、三部構成になっています。
 一部は、広重の浮世絵とともに中山道の六十九の宿場を紹介するというもの。
 二部は放送された内容をダイジェストにしてまとめたものです。
 旅番組らしく、各地の名物を食したりもするのですが、健さんはタレントのようなリアクションをとらずに淡々と食するだけなので、それが逆に可笑しくて、変な笑いがでてしまいます。
 三部は旅先での演奏集です。教会や、日本庭園の中で行われた美しいピアノやオルガン演奏が収められています。
 
 全体的にかなりよくまとまっていると思いました。
 同じクォリティで「鎌倉—」の方も出してもらえれば言うことはないのですが。