更新が一ヶ月くらい滞ってしまいましたね。
愛知に越してきて、はや三週間が過ぎました。目まぐるしく、息をつく間もない日々でした。
今になってようやく、一息ついて、サイトを更新する準備が整いました。
この間にわたしが読んだ本を紹介したいと思います。
一冊目は、山本周五郎の「青べか物語」です。
いままで何となく聞いたことのある名前だったのですが(「山本周五郎賞」などで)著作にふれたことはありませんでした。
たまたま実家の本棚にあったので、読むものが無くなったら読んでみようと思っていたのです。
内容は、山本周五郎が二十台のころに住んでいた浦粕(千葉県浦安市)での体験を記したものです。時代としては大戦前の昭和初期になります。
最初のエピソードが、不恰好な釣り船(子どもたちからは「ぶっくれ舟」と馬鹿にされている)をおじいさんに売りつけられるというものなのですが、この舟が表題になっている「青べか」です。
この時点で、「なんかまったりした話だなぁ」と思い、退屈なエピソードが続くのではないかと不安になったのですが、さにあらず、次の「蜜柑の木」からドロドロ、ぐちゃぐちゃ、「田舎って怖いね…」の世界に没入して行きました。
主に女性問題なのですが、先に赤松啓介の本などを読んでいたので、こういうことはやっぱり、どこと限らず全国的に行われてたんだなぁと、妙に納得したりもしました。
全編、狡猾、吝嗇、愚昧、好色、嘲笑的な漁民の姿を赤裸々に描いています。浦安ではなく、浦粕とぼかした気持ちも分かろうかというものです。
しかし、スキャンダラスなだけではないのです。どのエピソードからもキラリと光るものが垣間見えます。土地独特の機知に富んだ言い回しや、一見ばかばかしく思えるけれど尊い行いから。
童話のように描かれたエピソードは作者の創作でしょうか?
これらが幻想的な世界を演出し、読者に限りない郷愁を抱かせるのだと思います。
二冊目は、新幹線の中で読み始めたものですが、火野葦平の「土と兵隊・麦と兵隊」です。
これはまさに日中戦争の渦中の物語です。
「土と兵隊」では作者が一兵卒として杭州湾(上海)上陸作戦に参加し、国民軍と壮絶な戦闘を繰り広げる様が活写されています。
「麦と兵隊」では、今度は記者として従軍した作者が、戦火の中で任務にあたる様子が描かれています。
いずれも日記風の文体で、戦闘の様子などが極めて生々しいです。激しい場面になると手に汗を感じ、文面にぐっと引き込まれていくような興奮を味わいました。
わたしは先入観から、フィクション。それも戦後に書かれたものだと思っていたのですが、何をいわんや、ガチの従軍記です。
芥川賞作家が、一兵卒として従軍し、その戦いのありのままを書き残すとは、なんとういうことでしょう。
自分の命も危ういような状況で、正確なだけではなく文学としても価値のあるものを書き残したというのは、呆れるほどの才能だと思います。
まるで戦争を美化するかの様な記述がいくつか見られますが、それ以上に大変な、奇跡的な作品だと思います。