もう師走である…(呆然)
新譜を追っている唯一のアーティストと言って良いスガシカオ。
そのお母様が逝去されたというニュースに触れたのはゴールデンウィークの頃でした。
91歳。大往生ですな。
そのニュースで瞠目したのは、2024年10月発売のアルバム「Acoustic Soul 2014-2024」にスガシカオ自身と母の半生をつづったエッセー「実録小説 ヤグルトさんの唄」が初回生産限定で同梱されていたということ。
初回限定でDVDとかを付けるのは、配信全盛の現在、お馴染みの商法ですが、本を付けて来るとは…。
スガシカオの本で思い出すのは20年以上前に読んだ「1095」
会社員時代のことや、退職して極貧生活のなかデモテープ作りに精を出したことが書かれていて、まだ何者でもなかった私に励ましを与えてくれました。
「ヤグルトさんの唄」はさらにスガの生い立ちから掘り下げて書かれているらしい…。
「Acoustic Soul 2014-2024」はコンピレーション盤なので普段ならスルーなのですが、いきおいカチカチ通販サイトを漁る人になりました。
しかし直面したのは市場にはすでに初回限定版は払底しているということ。
中古にはプレミアムが付いて手を出せる値段ではなくなっています。
う~ん。小説の方だけで良いのでどこかの出版社から出して貰えませんかね…。
しかしッ! 地道なウォッチが実って定価(¥6,490)とほぼ変わらない値段で入手に成功!!
初回特典「ヤグルトさんの唄」を手にしました。
文庫本サイズというのが嬉しいですね。しかも236ページもあって読み応えありそう。
それにしても一見「満州引き揚げですか?」言いたくなる白黒写真のカバー。
スガシカオの名を知らなければまず手を取る人はいないでしょうな。
ただじっくり見ると心が温かくなるような素敵な写真でもあります。
ヤグルトさんというのはスガシカオのお母様のアダ名で、ヤクルトとヨーグルトの区別を付けられず「ヤグルト」と呼んでいたので、周りの人から付けられたのだそう(?)
この本はそのヤグルトさんの人生とスガの半生を絡めた自伝小説で、KYなヤグルトさんに辟易しつつも深い愛情を感じさせる筆致で描かれています。
スガの誕生は昭和41年、母親の実家である渋谷。
新婚当時のヤグルト夫妻は貧乏だったので、実家の庭にプレハブを建てて生活しており、そこで生を受けたといいます。
プレハブはお父さんが寝たばこで燃やしたり(!)しながらも、小学生まで暮らしたそう。
中学から下町に引越し、メジャーデビュー後の1999年までそこで暮らします。
築地で働いていたヤグルトさんの交通の便を鑑みてのことだそう。
場所ははっきり書いてないのですが、多分足立区あたりだったかと思います。
当時の下町の中学校は校内暴力全盛の「ビーバップハイスクール」みたいな世界で、暴力に支配された学校の描写がリアルです…。
街自体も浮浪者のおじさんがうろつくワイルドワールドで、多感なスガ少年は色々感じます。
私も一時期亀有に住んでいたので、このあたりのエピソードの空気感はよくわかります。
そんななかでギターに出会い、音楽に傾倒していきます。
大学を卒業して就職したものの、28才で一念発起して退職(このあたり、40歳の時に上司と喧嘩して会社を辞めて独立したお父さんと血は争えないと述懐してます)
両親が引退後の暮らしのために買っておいた、千葉県習志野市の一軒家に籠ってデモテープを作る日々を送りはじめます。
食べるものが無さすぎて、白米に胃薬をふりかけて食べたという伝説のエピソードが生まれたのもこの頃ですね。
だが努力が実り! 97年に念願のメジャーデビューを果たします。
その後は好セールスを連発し、とんとん拍子に進んでいたのですが、その裏でお父さんが病を得て長い闘病生活を送るようになりました。
2002年2月。その7年の長きにわたる闘病生活が終わる日が来ました。
実録小説もここで一旦筆がおかれます。
スガはお父さんのことをひどく不器用な人だと思っていますが、その血は紛れもなく自分の中に流れていて大切に思っていることがよく伝わってきました。
ヤグルトさんも傍若無人なエピソード満載ですが、そのファンキーさ(?)を何より愛していたのだと思います。
振り返るとスガシカオの楽曲は家族をテーマにしたものが多いことに気付きます。
何しろセカンドアルバムからして「Family」ですからね。
ただ、昔の楽曲では家族の描写があまり具体的でなかったものが、近年ははっとするようなリアルな歌詞を書くようになったと思います。
初めてそれを感じたのは、「THE LAST」(2016年)の「ふるえる手」ですね。
「いつもふるえていたアル中の父さんの手…」
そういった心境の変化はあとがきにこう綴られていました。
デビューの頃から「家族」というモチーフ、自分自身の創作活動の一つのテーマになっていました。
近すぎてよくわからない関係、親と子というわずらわしい距離感、家族という気持ちの悪いシステム……すべてがこうであるものと、あらかじめぼんやりと決められてしまっている幻想……それが俺にとっての家族だったんだよね。
でも、父が亡くなって10年、ヤグルトさんも高齢になり……自分の中で、「家族」という魔物が劣化・老化してしまい、もはや攻撃する対象ではなくなってしまったんだよね
付録の話ばかりになってしまいましたが、肝心の「Acoustic Soul 2014-2024」自体の話もしましょう。
3曲目「ヤグルトさんの唄」は小説を読んだ後なら必聴でしょう。
屈折した歌詞がウリのスガがこれほど率直に愛情を表現するとは……。
あくまで憶測ですが、曲を書いた時点でヤグルトさんとの別れというのも意識してたのかも知れません。
白眉は「あなたへの手紙」
CMソングになっているので耳にする機会が多いですね。
聴くたびに優しい気持ちになれる曲です。
そのやさしさは、ヤグルトさんとお父さんの愛情によって育まれたんでしょうね。


























































































